リニア工事認可取り消し訴訟の提訴

 5月20日、リニア沿線住民ネットワークはリニア中央新幹線の工事認可取り消しを求める行政訴訟を東京地方裁判所に提訴しました。地元の『信濃毎日新聞』が、1面、3面、36面に記事をのせています。3面に飯田下伊那の関係者の声がのっています。

 商工会議所の会頭の柴田忠昭氏は:

これだけのプロジェクトであれば一定の反対が出るのはしょうがないことだが、一日も早い開通を望む立場からすれば残念だ。司法判断を下した上で予定通り進んでほしい

 批判が多いということは理解されているようです。司法判断が下るのは多分、開通予定時期と同じころになるはず、司法判断が下るまで柴田さんは待てるというのでしょうか。「国交大臣のお墨付きはいただいているのだから、司法の判断とは関係なく、さっさと工事を始めてほしい」というべきだったでしょう。この点について、牧野飯田市長は次のように言ったそうです:

工事実施計画は法に基づく手続きがなされた上で国の認可を受けており、計画に沿ってさまざまな調整が進んでいると認識している

 一方、大鹿村の柳島村長は:

やってみなければ影響が分からないあまりにスケールが大きい工事で、大鹿村も含めみんなが不安を抱えている
(情報公開が不十分という原告たちの指摘について)住民の不安を払拭するJRのさらなる努力が必要だ

 注目は、喬木村の市瀬村長のコメント:

裁判を通して地域が抱える不安に関心を持ってもらうきっかけになる

 と裁判を通じ広く国民にリニアの問題点をアピールしたいという原告の意図の一つと同じことをいっています。市瀬村長は依然、リニア推進の提灯持ち学者の市川廣雄氏に一括されたことがありました(参考)。

 ほかに、JR東海は住民への丁寧な説明をすべきだという阿智村の熊谷村長、豊丘村の菅沼副村長のコメントをのせています。

 最近、リニア推進派のはずの伊藤下条村長は「リニアは我々が思っている以上に覚悟しないといけない」と発言したそうです(5月16日、飯伊14市町村長と阿部県知事との意見交換会。『南信州』5月18日)。牧野飯田市長と柴田飯田商工会議所会頭以外の飯田下伊那の指導的立場、特に首長のほとんどはリニアに非常に大きな心配をしているといえるのではないか。

 伊那谷住民としては、リニアに対するぼんやりとした期待はいったん捨てるべきだと思います。よく、お金の無駄遣いをしないために、「欲しい物」と「必要な物」を区別して考えること、といわれるのですが、リニアは「欲しい物」なのか「必要な物」なのか、地域住民の暮らしを脅かしてまで「必要な物」といえるのかよく考えてみたほうがいいと思います。私は「必要ない物」だと思います。また「欲しい物」とも思いません。

 なお、提訴の様子については、「東濃リニア通信」の5月21日の(2)5月21日の(1)5月20日5月23日(報道記事へのリンク集)5月22日(報道記事へのリンク集)を見てください。

 『日経』(紙面)は今のところ、提訴の記事を載せていません。しかし、『日経』には間違いなくリニア計画に懐疑的な人がいるはず(参考)。

 提訴後に参議院議員会館であった集会の時『東京新聞』の記事「こちら特報部:リニア認可取り消し求め提訴へ」(5月17日)のコピーをいただきました。その記事の最後にのっている「デスクメモ」:

北陸新幹線が金沢まで延伸し、北海道新幹線が開業した。その一方で、赤字ローカル線がJRから切り離されて第三セクターの運営になり、乗車賃が高くなる。いずれは廃線の道をたどるのかもしれない。個人的には、リニアを造る余力があるなら、地方の鉄道保護に努めてほしい。

 同じ系列の『中日』にはまだこの記事はのっていないと思います。

(2016/05/24)


訴状

 訴状の全文をPDF化したものを下に置きました。なお、原告の方々には後日プリントアウトして製本したものをお届けします。約100ページあります。