更新:2018/01/01
初春、希望的観測について考える
新年、明けましておめでとうございます。
昨年(2017年)11月末に毎日新聞が高速増殖炉「もんじゅ」の冷却用のナトリウムが廃炉の際に取り出せるような設計になっていなかったと伝えました。毎日の記事の要点は:
- 直接核燃料に触れる1次冷却系の設備は合金製の隔壁に覆われ、原子炉容器に近づけない
- 原子炉容器内は燃料の露出を防ぐため、ナトリウムが一定量以下にならないような構造。このため1次冷却系のナトリウム約760トンのうち、原子炉容器内にある数百トンは抜き取れない
- 運転を開始した94年以来、原子炉容器内のナトリウムを抜き取ったことは一度もない
- 原子力機構幹部は「設計当時は完成を急ぐのが最優先で、廃炉のことは念頭になかった」と、原子炉容器内の液体ナトリウム抜き取りを想定していないことを認めた
これに対して国立研究開発法人日本原子力研究開発機構は、毎日の記事を誤報と断じて抗議の声明を出しました。
- 11月29日:平成29年11月29日付毎日新聞における「もんじゅ」に関する報道について
- 11月29日:記事解説
- 11月30日:一連の「もんじゅ」1次冷却系ナトリウム取り出しに関する報道について
2つ目のPDFに:
運転段階においては、原子炉容器内にある燃料を冷却するために、万一の配管が破断するような事故が発生した場合においても、燃料がナトリウムから露出することが無いよう原子炉容器内のナトリウムを抜き取る設計にはしていない。原子炉容器内のナトリウムの抜き取りについては、今後詳細に検討して決定していくが、原子炉容器の底部まで差し込んであるメンテナンス冷却系の入口配管を活用するなどにより抜き取ることが技術的に可能と考えている。その上で原子炉容器の最底部に残留するナトリウム(約1㎥)については、更なる抜き取り方法を検討するが、技術的に十分可能なものである。
とありまして、抗議にも反論にもなっていないことは明らかです。完成を急いだために設計の段階で極めて困難になると判っていた廃炉の方法を詰めてなかった。
原子力発電は、狭い国土の日本で、狭いだけでなく地震が多く火山も多い日本の国土で、使用済み核燃料や放射性廃棄物の最終処分場が見つかるはずもないのに、導入しました。基本的で一番大事な問題を考えていない。
リニアの場合、1977年にドイツは超電導磁石を使用した誘導反発方式はさまざまの条件下で乗り心地を良くする方法の見込みがないとして超電導磁石の採用を止めていました。現在になってもリニアの揺れがひどいというのは「もんじゅ」と同じように基礎的な段階での研究が不十分だったためなのではないかと思います。実験線の責任者は2027年の開業までには改善できるとノンキです。
零式艦上戦闘機は、複葉機を含む旧式の戦闘機に対しては速度や運動性、火力で優位でしたが、機体の丈夫さ、搭乗員の安全という戦闘機で最も基本的な機能を無視したために、大平洋戦争がはじまるとじきに海軍航空隊は劣勢になりました。
目先の高性能、高機能にとらわれて基本的な部分を忘れているというのが、日本の技術の伝統だとしたら困ったものです。「希望的観測を拠り所に」基本的なことを無視するというのはダメですね。