更新:2019/05/10
失敗に学ぶ姿勢
「東濃リニア通信」(2019年05月09日 07時53分03秒)によると、SankeiBiz の「論風」に、 "リニア、時速500キロの世界 地震へのリスク対応は万全か (渡辺実)" という記事が掲載されています。
執筆の渡辺さんはまちづくり計画研究所の所長で防災・危機管理が専門。
- 「路線が品川駅-神奈川県駅-山梨県駅-長野県駅-名古屋駅を計画しており、まさに今後30年以内発生確率70~80%の南海トラフ巨大地震想定震源域の内陸北側縁を走る」
- 「山岳地のトンネルから地上への避難は非常に困難で、1編成1000人以上の規模で走行予定だとすれば山岳地で地上避難した多くの乗客を誰がどう救出するのか」
- 「計画路線は糸魚川・静岡構造線などいくつもの活断層を横断するリスクもある」
- 「既存の新幹線の地震リスクに加え時速500キロの地震リスクは想像を絶するものがある。品川-名古屋間総工費5兆5000億円もの民間投資は誰のためのリニア新幹線なのか、南海トラフ地震のリスクを民間企業が背負いきれるのか-など、考えさせられた」
など指摘し、「みなさんは27年開業のリニア中央新幹線に乗車しますか?」と結んでいます。
さて、渡辺さんは、2001年の米中枢部同時多発テロのときのニューヨーク市消防局の活動について調査・検証した『マッキンゼー報告書 ― FDNY の緊急災害対応強化策』を翻訳紹介しています。たしか、ご自分でも視察して報告を書かれたと思います。
シカゴのシアーズタワー(1974年完成)ができるまでの短い期間でしたが、世界一の高層建築を誇った世界貿易センターのツインタワー(第1が1972年、第2が1973年完成)は、同時多発テロで倒壊しました。その時ニューヨーク市消防局は多くの消防士を失いましたが、有効な消防活動や、救助活動はほとんどできませんでした。
ツインタワーの倒壊については、計画の進め方、建築構造の強度、施工が完全であったか、避難経路の位置が適切でなかったなど防災上の問題点などが、明らかになっています(ドワイアー・フリン共著『9・11 生死を分けた102分』、"FEMA/World Trade Center Building Performance Study"、"NIST/ Final Reports of the Federal Building and Fire Investigation of the World Trade Center Disaster"など)。事件前から危険なビルとの指摘もあった点も大事です。
リニア中央新幹線の開発と事業計画も世界一の先端技術といわれています。先行する先端技術の失敗に学ぶ姿勢があったかどうか、非常に疑問です。つまり:
- トンネル内部での火災の時の救助の問題(火災が起きたらトンネルを抜けるというが、全線の86%がトンネル、さらに防災フードの設置区間もある)
- トンネル内での非常停止と、
- 沿線の貧弱な救急体制(救助に行けないまたは非常に難しい人里離れた場所を走るルート:非常口から脱出できたとしても、たとえば大鹿村の最も奥の集落よりさらに奥にある釜沢非常口から1000人の乗客をどうやって、搬出するのか。大鹿村の人口が約1000人なのでいろいろなインフラもその規模のものしかありませんが、村中心部へ行くまでの道路が非常に狭くまた、地震や豪雨では寸断される恐れもある。さらに松川町や飯田市周辺まで運ばなくては乗客は東京や名古屋には戻れません。)
- 渡辺さんの指摘の通り南海トラフ地震の震源域の外縁部を走ること (⇒参考ページ)
- しかし、JR東海がいう地震発生時の緊急停止策(JR東海、JR東海、リニアの緊急時の対策)は、東日本大震災の時の東海道新幹線のような位置関係、つまり遠隔地の地震に関するもので震源域を走るリニアでは有効ではない、など
- そのほか走行方式自体にも、超電導磁石の採用や側壁浮上方式を採用せざるを得ないことなど、安全上数々の疑念があります
- さらに、テロの標的になる危険性もある
渡辺さんも、リニアは「ゆれる」と書いています(関連ページ)。実際には車輪走行から浮上走行に移ると車体は沈みますが、「約150キロで浮上走行に移行すると、少し車両が浮く感覚があり」と書いています。「浮く感覚」というのは実は沈む感覚なのだと思います。それは「ゆれる」からこそ浮いていると感じるのだと思います。
余談になるかも知れませんが、ツインタワーの倒壊やペンタゴンの破壊について、その原因について工学的、技術的な説明ができているにもかかわらず、不自然とか、飛行機の衝突程度であれほどの大惨事にはならない、きっと政府機関などによって爆破されたに違いないといった陰謀説が当時からしばらくの間、流行しました。主にアメリカの極右的な人々が言い立てたことなのですが、日本では環境保護や、平和運動の活動家の一部が持ち込んで広めるということもありました。このような軽率な言説については警戒しないといけません。
背景の画像のもとの写真↓
写真のやや右寄りの遠方に三河高原があります。三河高原の地形って、この雲のような形になっていたような気がしたので撮影しました。