更新:2020/12/15、補足 2020/12/16
沿線市町村長、長野県、JR東海の意見交換会(12月14日)
12月14日、本当は第7回目になる、第6回の県内リニア沿線市町村と県とJR東海の意見交換会が飯田市追手町にある長野県南信消費者センター2階で行われました。冒頭の、長野県、南信州広域連合長(飯田市長)、JR東海の宇野護副社長のあいさつ部分のみが公開で、意見交換の部分は非公開でした。
- 出席者名簿
以前、長野県担当部長でいろいろと名を馳せた澤田尚夫さんも出席、執行役員になっておられます。
飯田市長はまず11月18日の北条地区の住民との意見交換会についてふれました。開業時期について、何年にということをいうのは難しいと思うが、JR東海は見通しをつけてほしいと述べました。
JR東海の宇野副社長は、市町村長などだけに配布された資料を参考に、取材席(一般の傍聴も可)にはない資料を参考に、静岡県の状況について、西俣非常口からの斜坑3.5kmと先進坑3㎞の6.5kmはどうしても掘らなくてはならない距離だが、現在の技術をもってすれば順調に行けば1月に100mは掘削できるので工事ヤード整備に3か月、5年5か月でトンネルを掘り終え、そしてガイドウェイの設置や試験走行、これはどうしても2年はかかるが、今年の6月中に着工が許されたなら2027年中の開業はできるということだった。しかし、6月に金子社長が川勝知事と会談したが許可されず、そのあと国交省の事務次官がJR東海と静岡県に新たな提案をし、JR東海は受け入れたが静岡県は受け入れなかった。だから2027年の開業は難しくなったと説明しました。
静岡工区の概略図(縦断面ではありません。上空から見たという感じです。)。宇野副社長が6.5kmといっているのは、西俣斜坑の3490mと本坑位置から先、長野工区までの3㎞。[ 2020/12/17 図解訂正 ]
宇野さんの説明はデタラメ。たとえば大鹿村の柳島村長は、長野工区の状況を3月おきに聞いているので、1月に100mを掘削するのが無理ということはわかるはず。 宇野さんの計算は間違っていませんが、1か月に100mという掘削速度は南アルプストンネルでは無理。長野工区では実績として40m程度。金子社長は斜坑、先進坑ともに3.5㎞といっていたと思いますが、長野工区で相当する除山斜坑のほうが約500m長いようです。長野工区の完成は今のペースが維持できたとして2032年以降になるはず。
さて、こういうJR東海のウソを前提に意見交換をしてなんの成果があるのか。宇野さんはストレートに静岡県知事が原因といっているように見えます。かえって、ほかの理由(いくらでもあるはず)でギブアップしたいけれど、川勝さんと静岡県民のせいにすればといった雰囲気が感じられました。そのへんのニュアンスをいならぶ首長さんや随行の自治体職員さんたちや県の職員さんたちは感じ取れたかどうか…?
配布資料のひとつ、長野県リニア整備推進局が作成したA3カラー刷りの「リニア中央新幹線 長野県内の事業概要(令和2年12月時点)」。
[ 拡大画像 ]、[ 工区別の工事状況の表の拡大 ] ※ スキャナで取り込む時に中心部のつぎはぎ部分がずれてしまいました。「保守基地」の下の3文字は「高架橋」です。
配布資料によれば、風越山トンネルの工期が65か月になっています。今年4月に公表された発注見通しでは80か月でした。短縮した65か月(約5年5か月)で本当にできるのでしょうか。2021年の4月に着工できたとしても、ガイドウェイ設置、試験走行の2年をたせば、完成は2028年から2029年。静岡に関係なく、2027年の開業は無理ということは、これ一つとってもあきらか。
この風越山トンネルの東側3.3kmは、最近陥没続発で話題になっているシールド工法、建設する場所も市街地の地下。工事を行うのはナトム工法でも陥没や地盤沈下を続発させた鉄道運輸機構。上郷黒田の皆さん、飯田市長さん、少しは心配した方が良いと思います。
長野県もJR東海も工事の進ちょく状況が8割という点を強調したいようでしたが、工事契約率が86%(延長ベース 45.9km/52.9km)、という意味。実際に掘削が行われているのは、除山、釜沢(以上2か所は7月豪雨の被災で掘削は中断中)、青木川、小渋川だけで、坂島、戸中、松川、がヤード整備中、黒田、唐沢、萩の平、広瀬、尾越はヤード整備はこれからという状況。明り区間や駅部はまったくの手付かず。伊那山地トンネルはもともとは飯田側の本坑口からを含め3か所から掘削する予定だったのに、ヤードが確保できずに、2か所(坂島、戸中)からに変更されています。多少は能率が落ちるはず。
残土置き場もせいぜい見込みは227.5万立米(25%未満)です。住民の声でつぶれた計画地で受け入れ可能だった残土の量は約640万立米、住民の反対でつぶれそうなものが70万立米。
宇野副社長は、本山の残土置場について、決まるまでに時間がかかったが、JR東海が土地を取得する方向で、12月から樹木の伐採にかかったといっていました。本山は地権者の森林組合が受け入れたくてしょうがないという感じで認可前から話が出ていたのに、長野県林務課が組合の受け入れ決定を白紙撤回させるとかいろいろいろありました。最終的には、工事中の残土捨て場も、「鉄道事業者が一般の需要に応ずるための施設に関する事業」に該当するという、ほとんどの人にとって違和感のある解釈で、保安林の指定が解除されました。なんか、後味が悪い気がしますね。
本当は7回目という意味
この意見交換会の始まりは実は、2016年の7月13日、『信毎』だけが報道していました。もともとのきっかけは豊丘村で残土置き場が住民の反対で潰れた事件。
補足:2020/12/16
風前の灯をだれが吹き消すのか?
ニュースから
意見交換会は30分ほどの冒頭のあいさつ部分以外は取材陣も退出。終了後に取材をしています。約1時間半ほどの待ち時間のあいだ、記者さんたちは駐車場の車の中や、県が用意した狭い控えの部屋でまっていました。控えの部屋を案内する職員はつかってくれても良いですが「密」にならないようにと注意していました。
■ 『中日』15日14面 "静岡工区で7年8カ月 JR幹部 県内首長に見通し"
宇野副社長の発言:
- 静岡工区で今年6月に着工できず、2027年開業は難しくなったと認識している
- 静岡工区は、工事ヤード整備、トンネル掘削、ガイドウェイ設置と試運転で7年8か月かかる
新たな開業時期について「静岡工区で着手が確実になったその段階でその先を考えたい」と理解を求めた。
佐藤市長は冒頭あいさつの中で、JR東海は開業時期について見通しをつけてほしいと求めましたが、記事によれば、
開業時期について「見通しが立つような情報提供を」と求めた飯田市の佐藤市長は終了後、「納得はしていないが、7年8か月を一つのめどとして市民に話せるようになる。一歩前進した」と手応えを語った。
■ 『信毎』15日3面 "協議中の30カ所含め残土9割処分確保 JR見通し"
宇野副社長の残土問題についての発言:
- 地権者と協議中の土地も含めれば全体(974万立米)の9割の処分地を確保できる
- 宇野氏は今年1月の時点では8割が処分できる見通しといっていた
- 飯田市、伊那市、喬木村、大鹿村、豊丘村の計11カ所が処分地として決定
- ほかに約30か所を候補地として地権者らと協議中
開業時期について、宇野氏は冒頭、静岡県内の南アルプストンネル静岡工区の工事を巡り同県と対立していることから、2027年の開業が難しくなっている―と改めて説明。「延期の期間はできるだけ短くしたい」と述べ、「長野県内の工事はペースを緩めることなく進める」とも強調した。
7月豪雨以来トンネル掘削が中断している除山斜坑と釜沢斜坑の工事再開について、宇野氏は取材に「できるだけ早く再開したい」と説明。時期については「話せる段階にない」とするにとどめた。
■ 『信州 NEWS WEB』15日 "JR「7年後のリニア開業困難」"
宇野副社長の開業時期についての発言
水資源への影響を考える静岡県との工事をめぐる協議が難航していることから、2027年の開業が難しいとする考えを改めて示しました
「たとえ2027年の開業は難しいとしても、延期する期間を極力短くできるように取り組みたい」と述べ、理解を求めました
会合後、取材に応じた宇野副社長は、開業のめどについて「現実に静岡工区で工事が着工できない状況のなかで、着工が確実になった段階で説明したい」と述べるにとどまりました
■ 『南信州』15日 "JR東海 27年開業困難も「延期短く」 首長との意見交換会 残土処理9割見通し"(web版)
佐藤市長は冒頭のあいさつの最初に北条地区でひらいた住民との意見交換会について触れましたが、そのあたりについて記事は:
関係市町村を代表し、冒頭であいさつした飯田市の佐藤健市長は「リニアの建設で周辺の生活環境が大きく変化する住民がいる。関係者の理解の上に事業が成り立っていることをJRにも受け止めてもらえれば」と求めた。
見通しをつけてほしいと求めたことについて記事は:
終了後、佐藤市長は静岡工区について具体的な数字が示されたことに触れ、「目安として市民や事業者に説明できるようになったのは1つ進展だと思う」と話した。
◇ ◇ ◇
こういう意見交換会は、結局は、地元の市町村長たちが、リニア計画について、長野県とJR東海からの一方的な情報を得る形になっています。非公開にすることで、リニアについての正しい情報を持ってるのは行政とJR東海だけなんだぜという意思表示をしているように見えます。権威を持たせている。市町村長たちはリニアに対する批判的な意見を聞こうとしていない。地域はほかのルートからも情報を求めるべきだと思います。これでは市町村長は正しい判断はできない、偏った情報だけで行政上の判断をしてもらっては困ります。
温暖化ガスの排出が問題になっているきょうこのごろ、取材陣に駐車場で暖をとるために無駄にガソリン炊かせるよりは、意見交換会の中身も取材させたらどうか。また一般住民にも傍聴をさせても良いのではないか。
さて、宇野さんの発言で明らかなことは、静岡で着工できる時期はほとんど分からない、静岡工区の工事期間はすごくあまく見積もって7年8か月。たぶん、隣合わせの長野工区のトンネル掘削のペースの実績の1か月40mを元に計算すると、トンネル掘削に13年と9か月+ヤード整備に3か月+ガイドウェイ設置・試運転に2年の合わせて16年はかかるでしょう。なにか他の計画で、こんなような前提なら、そんな計画には誰も乗らないでしょうに。
どうも、JR東海のリニア計画は風前の灯にあるようです。火を吹き消すのは、川勝さんか、それともだれなのか、という時期に来ていると思いますね。そうしないと、沿線の住民が困る。