更新:2021/05/25
減水問題、長野と静岡の違いは
5月22日の『信毎』の1面トップに "大鹿の水源 工事影響は 住民注視「水量減った」声も"(web版)という記事が、2面には "リニア 水資源巡る溝いまだ 静岡 有識者の県境対策検証に難色 国交省 議論の中立性に問題ない 川勝知事 「JR東海を追認するだけ」" がのりました。
1面は、大鹿村の向山牧場の水源の水量が減っているのはリニアのトンネル工事によるものではないかという声が住民から出ているという話。近年は雪が少ないからではないかという住民の声もあるとも書いています。トンネル工事の水資源への影響の心配は静岡県でも長野県でも同じというのが、記事の言いたいことと思います。
たとえば、ざっとのことをいえば、天竜川なんかも近年は水量が減ったという感じはします。近年は雪がすくないからという説明がしっくりきます。
記事の冒頭にでてくる向山牧場と一番近いリニアトンネルの掘削現場(トンネルの最先端=切羽、きりは)は、3㎞と少し。JR東海はモニタリングでは減水は認められないと、村は水源が減ったという報告はないといっているようです。鳥倉山の頂上を挟んで向山牧場と反対側の釜沢集落の住民の声ものっていますが、水が減ったという事実があるとはいっていない。心配だといっている。リニアトンネルは集落の近くの地下を通ります。釜沢ではトンネル掘削で水源への影響の心配があったので、代替水源を確保しているはず。向山牧場の水源についてJR東海がモニタリングしているのか、代替水源を工事に先立って確保したのかは知りませんが、記事から受ける印象ではどちらもしていないのでしょう。
記事掲載の地図では、位置関係がざっと分かるだけです。付近の地形図です。
「?」は小渋川斜坑の先で掘削中の本線部分の先進坑の切羽の推定位置。
この記事について、フェースブックのリニアを考えるコミュニティに、「入谷の地滑り対策と関係は」との指摘が出ていました。入谷(にゅうや)では以前から地滑り対策で水抜きをしています(参考)。
去年の7月豪雨では釜沢地区で地滑りがあって、以後、地すべり対策で水抜き工事をやっています。水が減る原因になりそうなことはいろいろあるわけです。そのうち、どれが本当に原因なのかは、山の中の水がどんなふうに、どんなところに、貯まっているのか、流れているのか、わからないと判断や予測はできないはず。
JR東海は環境へ与える影響について世間に説明するために環境影響評価というのをやりました。静岡県で問題になっていることは、JR東海がトンネル工事の影響を予測するときに、山の中は全部様子が同じで一定と考えて、やっていた点。高橋の水文学的方法というようです。背中合わせの長野県内についても同じです。この点は、環境影響評価の段階から批判を受けていました。破砕帯や断層があって、被圧水が存在する場合は適用できないそうです。
トンネルを掘る立場からみると、切羽からある程度の距離の前方の地質の様子がわかればトンネルは掘れるはずと考えるでしょう。たいていどこでもトンネルは掘れる、なんとか掘れると。これはJR東海の立場。そして、外部への影響は分からないし、うるさいことを言われなければ、分からなくても良いわけです。分かったような説明で分からせれば良いで通ると思ってやった環境影響評価なのですが、静岡県は分かってくれない。JR東海が場所が険しくてボーリング調査ができないと説明すると、難波副知事は、調査できないような場所にトンネルは掘るべきでないといったりしています。
2面の記事は静岡県の大井川の問題の解決の糸口がいまだに見いだせていないという記事。くりかえすと、南アルプスの稜線を挟んで背中合わせの大鹿と静岡に共通する点は、JR東海のトンネル湧水の予測のモデルが適正かどうかという点と、トンネルを掘削する立場から考えた湧水の予測は切羽からできるけれど水資源への予測は出来ないという点。掘削前に地上から調査を確実にできない場所ではトンネルを掘らなければ、水資源への影響について責任は問われない。予測のモデルの不適切さは環境影響評価の段階で環境大臣意見で指摘されたし、静岡県からも今も指摘されている。大鹿の住民も指摘していたはず。
大井川と小河内沢と規模の違いはあっても、規模は小さいといっても小河内沢の水量予測は県営水力発電所の取水口付近で半減。トンネル工事の水資源への影響の仕組みは同じはず。河川使用許可の県知事の権限も同じはず。阿部守一さんと川勝平太さんの違いはなになのか?
長野工区の先進坑について掘削のペースがかなり落ちています。JR東海は、地質の変わり目なので慎重に掘っていると説明しています(『南信州』)。これについて『信毎』の22日の2つの記事は書いていません。6月下旬の大鹿村のリニア連絡協議会でJR東海さんのトンネル工事の進ちょく状況の報告に注目です。