更新:2021/11/18

風越山トンネルと大深度地下

風越山トンネルも事前の用地交渉が必要

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(拡大) 飯田市上郷黒田地区の地下に掘られるリニアの風越山トンネル

 リニアの長野県の中間駅のできる予定の飯田市上郷北条から松川までの間の風越山(かざこしやま)トンネルはかなりの部分は市街地の地下約40m~100m程度を掘削します。また、シールド工法で工事が行われます。つまり、実質的には東京都内のリニアのトンネル工事や外環道のトンネル工事を同じ条件です。外環道では調布市内で住宅地の道路の陥没や地盤のゆるみなどがあって、地上の住宅の移転が必要なところも出ています。

 民法では、土地の所有権は地下に及ぶとされるので、本来は、トンネル上部の所有者の同意をえるとか、使用料を払うとか、工作物(トンネル)を保全するため地上での使用に制限を求めるとか、さらにそれを完全にするために区分地上権(※)を設定し登記するなどの手続きが必要です。少なくとも地権者がそういう事前の交渉をJR東海に求めることは当たり前の権利だと思います。

※ 1966年の民法改正で新たに加えられた。

 JR東海はトンネルの深度が5m以下の場合は用地を買い取り、5m~30mの範囲の土地については区分地上権を設定するといっています。では、30mより深い部分はということになりますね。30mより深い部分については、地域全体への説明会で了承を得て工事する、つまり個々の地権者に話をすることはないと言っています。

 東京や愛知など都市部では「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度法)により、国交大臣により大深度法が適用された事業については、40mより深い部分のトンネル工事については事前に所有者と交渉せずに工事ができることになっています。長野県は大深度法の対象地域ではないです。では30mより深い部分は法律上はどうなるのということになりますね。基本的には、30mより深いところにも民法で規定されるとおり所有権は及ぶはずなのですが…。

 『東洋経済オンライン』10月18日の "大深度地下法の「生みの親」に聞く立法の真意 外環道陥没で問題化、大深度法でも安全ではない" を読むと分かりますが、JR東海が言っている30mという数字にはとくに根拠がないのです。大深度法の制定に深く関わった野沢太三・元参院議員がそう言っています。

…明治時代から鉄道マンの先輩たちはトンネル用地を全部買うのは不合理だと考えていたこと。大きな山を上まで買っても意味がない。買うほうも大変だし、買われるほうも自分の土地のなかに(鉄道当局の)トンネルの細長い土地が入りこむことになって具合が悪い。
 そこで地主と合意してトンネルの入り口しか買収しないことにした。そういうルールを当時の鉄道当局と農林当局との間で覚書をかわした。それに従って道路も水道も、山岳トンネルは坑口しか買わないルールが確立された。慣例と言っていいかもしれない。
東京都内は地主が地下深く、地下30メートルくらいまで区分所有を主張するので、用地買収の手続きが容易ではない。補償額は深くなるほど安くなるが、補償手続きのための膨大なハンコが必要になる。

 風越山トンネルの通る飯田市上郷の黒田地区などは、山とはいえないです。田舎とはいっても市街地です。大深度法ではその適用できる地域であれば認可を受ければ40m以下は地主に事前の交渉や補償なしに工事が出来るという意味。逆に適用できない都市部では、40mより深い部分でも事前の交渉がいると解釈できるはずです。であれば、黒田地区などについても民法の規定を尊重して、全ての地権者と事前に交渉をして、使用料を支払うなどの補償内容を決めるとか、同意を得るとか、区分地上権の設定をするなどの手続きが必要なはずです。山林ではないのですから。

 ところが、JR東海はトンネルが地上でどこを通るのかさえ示さない方針です。2015年の5月頃から始めた周辺地域の中央線測量でも黒田地区は測量をしていません。当時、飯田市はこの点について芋の煮えたのご存じないという感じでした。飯田市がリニアの用地交渉を担当しているのですが、黒田地区の地上の地権者に対しては何も交渉はしていないはずです。

参考:"深度の深いトンネル部分は中心線測量をしない"

 そして、第一に、調布の事故のように、ここでも地盤沈下などの被害が生じる可能性があるのです。住民、市民の生活に危険が生じる可能性があります。

 トンネル工事をする場合の区分地上権設定の問題については、新潟県内の国道のバイパス工事の時に土被り10m程度のトンネル掘削にあたって、区分地上権の交渉をしたというレポートが国道交通省の北陸整備局のHPにありました。現在は削除されたようですが、アクセスが多いためか WaybackMachine にコピーが残っています。トンネルを掘る山の上部はだいたい山林で、トンネル工事によって収益に与える影響は非常に少ないから用地交渉はして来なかったが、この例では地上に住宅があったので区分地上権の設定をして補償をしたと書かれています。

トンネルの保全にあたっては、地山の土被りが薄く、トンネルの構造に影響を及ぼす範囲は坑口部として用地を取得し、必要に応じて構造物等を設置するなどしているが、坑口部以外については、一般的な山岳トンネルの場合、将来においても山林としての土地利用が通常であり、現状の使用収益への影響が極めて少ないと考えられる場合については、工事説明会などで地権者に対し工事内容等の説明を行い、トンネル掘削の了解を得た上で工事に着手し、特段の権利設定等は行っていない。(トンネル保全のための区分地上権設定について)

参考ページ:トンネル用地の区分地上権について

 野沢太三・元参院議員と同じことをいっています。