更新:2022/04/26

超電導リニア、側壁浮上方式の安全性は?
~北山敏和さんのHP~

 これまで、何度か紹介していますが、国鉄時代からずっと鉄道車両技術にかかわって来られた北山敏和さんのホームページを紹介します。

 北山さんがJR東海のリニア中央新幹線について書かれているのが:

 このページの最上段から2行が、リニア関連記事の目次ページになっています。

 「超伝導磁石」(=山梨リニアの超伝導磁石)というページ。『日立評論』の紹介文の最後のほうに:

 私が藤江恂治氏の後任として宮崎実験センターの副所長になったのは、逆T型のガイドウエイからU型のガイドウエイへの切替工事のときでした。
 逆T型では人の乗るスペースがないので、U型にして人の乗れる車両に変更しました。
 人が乗らなければ安全性を気にする必要がなかったのが、人が乗るなら安全性を考える必要があります。
 それをやらないでU型の工事を計画し認めてしまったのが、間違いの始まりです。

 たいへん気になる指摘だと思います。

 鉄道総合技術研究所の出版しているPR誌『RRR(Railway Research Review)』の2021年1月号に「浮上式鉄道の 浮上案内システム」(p28-31)という記事が出ています。その31ページに次のように書いてあります。

側壁浮上案内方式への提案がなされましたが、これまで実績のある対向浮上方式からの変更は当時の関係者一同にとり大きな決断を要する事柄でした

 北山さんの指摘と合わせてみると、「大きな決断を要する事柄」といういい方がたいへん気になります。

 北山さんの「超伝導磁石」のページでは、ほかに:

  • 超電導磁石に鉄の車輪と同じ信頼性(乗り物としての安全性につながる問題)は期待できないこと
  • 電車などに比べると扱いがやっかいなこと
  • 有能な技術者は「リニアはモノにならないと」と見抜いていたこと
  • 国鉄内に京谷氏独裁のリニア村ができていったこと

など、書かれています。

 「天野光三(=山梨リニアの仕掛人 天野光三京大教授)」では、天野氏の経歴のなかに、「1989年1月22日 毎日新聞に石原運輸大臣のリニア推進の記事が出る。」で、『毎日新聞』1988年1月22日付の記事が紹介されています。当時の石原慎太郎運輸大臣は記者会見で次のように述べたそうです。

西ドイツのリニアモーターカー、「トランスラピッド」と比べて日本のリニアモーターカーは技術力、経済性などの面で上回っていると指摘、「直線での運転ならば実用化段階にきている」として、…千歳ー札幌間は格好の場所であると発言した。

 この当時、ドイツのトランスラピッドは、両端にループのある実験線 で、こんな感じで走行試験が行われていました。日本のリニアはまだ宮崎実験線の時代です。超電導リニアはまだ開発途上だったのに、ほぼ実用段階になっていたトランスラピッドと比較して「技術力、経済性などの面で上回っている」という評価は、本来できないはずです。

 超電導リニアの側壁方式では、高さ約1.3mで、長さ12m58㎝ のコンクリート板に、14個の浮上案内用コイル取り付けたものを、左右の足並みをそろえて12.6mごとに並べて軌道をつくります。直線部分では問題はありませんが、カーブは軌道の内側と外側で距離が違います。約12.6mのコンクリート板を並べてカーブをつくるとすれば、カーブのきつさについて限界があるだろうことは想像できることだろうと思います。

関連ページ:カーブでは内側と外側の長さがちがう

 石原氏が「直線での運転なら…」といってから曲線の走行について実用段階にきているという具体的な説明が、国交省やJR東海からあったでしょうか?

 ほかのページも大変参考になるものばかりです。


[参考・補足] 石原慎太郎運輸大臣の国会答弁

 1988年の石原運輸大臣の記者会見の記事で「直線での運転ならば…」という発言について書いた新聞は『毎日』だけのようです。

 1988年2月3日の衆議院予算員会で自民党の山下徳夫(1919年10月7日生まれ、2014年1月1日死去)議員の質問に対する石原運運輸大臣の答弁です。石原氏の答弁には論理の無理があるというか、ごまかし的なところがありますが、「直線での運転なら」という発言は、おそらく記者会見でもしたと思われます。

○山下(徳)委員 先ほども触れましたが、狭い日本を有効利用するためにはやはり交通の発達が大切である。国土庁長官から地価問題についてもるる御説明がございましたが、極端な意見の中、あるいは極端というよりも実現すれば結構でございますが、リニアモーターカーが発達すると大阪も東京の通勤圏に入るという議論すらあるわけでございます。新しいこの日本におけるリニアモーターカーという交通は、これは今後の交通体系の中に非常に期待されるべきものであると思うのでございます。
 大臣は先般西ドイツですかのリニアモーターカーを視察されました。いろいろな御感想を述べられておるのを私も拝見いたしました。その発言が一部では物議を醸しているということでございますが、その真相は一体どうなんですか、この際はっきり……。
○浜田委員長 運輸大臣石原慎太郎君。慎重に御答弁願います。
○石原国務大臣 せんだって西ドイツのエムスランドというところに参りまして、向こうの技術をつぶさに見て参りました。翌日、ちょっと時差ぼけが残っておるときに記者会見いたしまして、言葉が不十分で大変誤解を招きまして、また一部の方々に御迷惑をおかけしたこと、申しわけないと思っております。
 特に宮崎県には私、じかに本意を釈明、説明いたしましたが、私、向こうへ行って非常に強いショックを受けました。それは、日本の実験の施設に比べて、こちらは七キロ、向こうは三十一キロという路線を敷き、敷地もゴルフ場が十も二十も入るぐらい広大な敷地で実験をしておりまして、しからばどちらが技術的に優秀かというと、はるかに日本の方が優秀でございます。
 それだけの成果を上げていながら、実は先般、ラスベガス市がロサンゼルスまで二百数十キロの路線を敷くに当たりまして、どういうわけかカナダの技術陣に調査を依頼しました結果、その報告でドイツ側の技術が採択をされることになりまして、その報告には奇妙なことに、論理的にも技術的にもはるかに日本の方が上であるが実験が足りないようだ、よって実用性はドイツの方が先であるということでありました。これは日本の技術陣にとって非常に不本意な報告でありまして、日本の技術陣の努力の結果、日本のリニアというものは、ドイツが幾つかの障害を想定して放棄いたしました低温超電導というものを見事にこなしました。例えば席当たりのコストでありますとか電力でありますと、これははるかにドイツより低いし、また浮上いたしますすき間が向こうは一センチ、こちらは十センチということで、非常にすぐれた技術を現に実験で示しております。もしこれがヨーロッパのように平たんで直線に近いコースならば日本の技術はすぐにも活用できるわけでありまして、ただ、日本の地形からいって、長距離を引くためにはトンネルとかあるいはすれ違いの技術をこれから開発しなくちゃなりませんが、ドイツに聞きますと、ドイツは、ヨーロッパは平たんであるからトンネルの必要はないということで、これは実際に実験をせずにモデルで済ますようでありますけれども、もう既にはっきりと国際的な商品価値を持っておりますこの日本の技術が、実は第三国によってそういうふうに正当に評価され得ないということは、これを開拓した技術陣にとっても申しわけないし、また国民の期待にも背くものだと思いますので、何とかこれをできるだけ早く実用に供したいと思うばかりにちょっと失言もいたしましたが、本意はそういうところでございました。
 ただ、これから先どこで次の実験をするかということは、これからそれを調査するために新規に二億円近い予算を構えたわけでございまして、これから技術陣と諮りまして調査し、進めていきたいと思っております。

(国会会議録:第112回国会 衆議院 予算委員会 第4号 昭和63年2月3日 より) <PDF版

参考

ジェラルド・K・オニール著、牧野昇訳『テクノロジー・エッジ 六つの超技術市場』(新潮社、原著1983年、訳本1985年)の第4章「磁気浮上」(p157~188)。結局はリニアを含め「何も」実現はしなかったのですが、なぜロサンゼルスとラスベガス間のリニア(マグレブ)について西ドイツのトランスラピッドが候補に上がったのかについては、日本の国鉄が開発している力学的マグレブ(*)・システムは、高度すぎて1980年代に建設するのは不可能であろうと判断を下し、TVEのTR-06型の引き合うマグレブ(*)・システムが実用的であり、研究するに値する、という結論に達した(p179) と書かれています。石原氏のいい方は字面では間違ってはいないといえますが、実際は「あてにならない」という判断であったとも言えるわけです。常電導はエレクトロニクスを応用して制御が必要だけれど(p165)、エレクトロニクスは非常に信頼性が高いので実用上の安全性は実証されている。一方、当時は超電導技術が産業分野で大々的に利用されていなかったので、超電導方式は常電導に比べまだまだ開発に時間がかかりリクスが高いという判断が当時あった(p166)ようです。

* 「マグレブ maglev」は 「磁気浮上式鉄道 magnetic levitation propulsion system 」のことで、日本ではリニア・モーターカーと呼んでいるもの。「力学的マグレブ」(EDS = Electrodynamic suspension、電気力学的支持)は国鉄の超電導リニアのこと。「引き合うマグレブ」はトランスラピッドやリニモなど常電導の磁気吸引方式(EMS = Electromagnetic suspension、電磁石支持)のこと。