更新:2023/03/25
風前の灯のリニア計画、くるしまぎれのPR
リニア計画が上手くいっていないのは明らかで、そもそも「2027年開業」という目標は、工事申請した時点でムリなことが分かっていたはず。静岡県は県が発言をしているので目立つんですが、他地域(*)でも、計画通りに工事が進んでいないところが多いはずです。
* 深い地中をいきなり直径14mとか16mという大きな断面で掘削するシールド工法は技術的にはまだまだ未経験の領域。外環道とリニアは、まだ実験段階だと思います。だから、どちらも、外環道では、陥没事故をおこしたり、リニアでは東京都品川区内や春日井市内でシールドマシンを地中に入れるのに失敗したりしています(初期掘進が上手くいっていない)。
『日経』は1月8日に、"鉄道各社、相次ぎ値上げへ 経営戦略の転換が急務" という記事で、JR東日本の高輪ゲートウェイ駅(東京・港)周辺の再開発をあげ、「総事業費は約5800億円と財務上重い負担だが、鉄道や不動産事業だけでなく生活サービスなど『非鉄道ビジネス』強化の拠点とし、開業後に年間560億円の営業収益を見込む。」とし、JR東海については、「リニアは東海道新幹線との客の奪い合いも避けられず、収益の改善は見込み難い。計画見直しの議論が広がるのは時間の問題だ。」と書いていました。
また、『中日』2月8日は "JR東海 鉄道依存脱却へ 収益多角化目指し10年計画"(1面)、"新幹線頼み タガ外そう JR東海 中村副社長に聞く 不動産に力 駅ビル生活密着"(7面)で、「ウェブ会議の普及など生活様式の変化で完全な回復は見通せない。新幹線に依存してきた従来のビジネスモデルからの転換は不可避となった」JR東海がグループ全体として鉄道事業以外の事業の収益力を強化するためにまとめた10年計画の長期ビジョンは、「新幹線の高い収益性に依存してきた社員の意識改革を促し、非鉄道事業の利益をコロナ前から倍増すると掲げる」と書いています。(このニュースは『中日』のほかに、『朝日』の "脱・新幹線依存へ、JR東海グループに指針 「10年で利益倍増」")
『中日』も『朝日』も、リニア計画を今後どう扱うのかについて、JR東海の具体的な考え方はどうなのかという「事実」については、伝えていません。もし、『日経』1月8日記事のような捉え方があったなら、今後のリニア計画の扱いについて記者が質問しなかったことはありえないと思います。
Youtube の「日テレNEWS」チャンネルの "【日本製リニア】初めてニューヨークで売り込み 高速鉄道は受け入れられる?『イチから解説』"(2023年3月23日放送)。2月下旬にニューヨークでJR東海の柘植会長が出席したリニアのPRイベントがありました。その関連で、アメリカのリニア計画や高速鉄道の計画の説明をしています。実際に計画がある、ワシントン・ボルチモア間のリニア計画については「首都ワシントンからメリーランド州のボルチモア間65キロを15分でつなぐ予定だということです。こちらは2033年から2034年ごろの完成をめざして環境影響評価が現在進められています。」と触れただけで、上手くいっていない事実にはまったく触れていません。結局、風前の灯の品川・名古屋間のリニア計画に期待を持たせるためのニュースだと思います。
Youtube の 「リニア中央新幹線チャンネル【JR東海】」、"超電導リニアの技術"(2023年3月24日掲載)。1分26秒から超電導磁石の説明。 ニオブチタン合金を使った超電導磁石については、詳しい説明(*)をしているのですが、3分25秒ふきんから、より高い温度で使える「高温超電導磁石を開発中」と説明しているんですが、「マイナス255度程度で超電導状態を維持できる素材を使用」することで液体ヘリウムや液体窒素を使わずに「コストの提言、メンテナンスの省力化、諸費電力の低減が見込めます」と説明。開発が上手く進んでいるなら、高温超電導磁石を使った走行試験(**)を行って安定性や信頼性が実証できたとかいうようなことを説明すると思うのですが、それはない。開発がその段階にまで達していないからでしょう。 関連ページ:どこまでつづくぬかるみか 第21回「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」
* 最初は、液体ヘリウムや液体窒素を使い捨てにしていたけれど、優れた冷凍機を開発したり、ヘリウムを回収する方法も開発したなどと説明。
** 2005年11月に高温超電導物質を使用した超電導磁石を搭載した車両の走行試験を行ったというトピック以外に、最近になっても、高温超電導磁石を搭載した車両の走行試験についての報道はなにもないと思います。
さて、『中日』(長野県版)16面 "リニア駆ける谷(2)超電導でふわり 超高速走行 運行計画はまだ浮上せず" 記事は、「リニアの利便性や地域への恩恵を左右する」飯田に止まる列車の数や運賃は開業時期同様にわからないというもの。その割に、リニアの走行方式だとか速達性の説明が多いのですが。記者さんの試乗記もあるんですが、「浮上する幅の10センチよりも大きいタイヤが格納されるため、実際にはやや沈み込む感覚だ」という表現。時速150㎞までは、浮上力が弱いこと、そして、磁気抵抗を減らすため、8の字型の浮上案内コイルの中心と超電導磁石の中心をそろえるため車輪で車体を支えています。150㎞を超えると浮力が十分になるので車輪を引っ込めると、浮力と列車の重量が釣り合うところまで車体は沈みます。タイヤの直径は10センチよりはるかに大きいはず。走行メカニズムを本当に理解しているんでしょうか。
リニアについて取材する記者さんたちの中にはリニアのメカニズムについて十分な知識のない方が多いような感じがします。それでは、よりシンプルな構造で実現できることを、わざわざ面倒くさい超電導技術を使っているという判断ができませんね。