更新:2023/03/15
どこまでつづくぬかるみか
第21回「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」
国交省の「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」のページよれば、「高温超電導磁石の長期耐久性の検証」という開発課題について2022年度末、つまり今月までに終える予定だったものを、3月10日の会合で2026年度までに延長することにしました。
第21回「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」の開催結果について の 別添資料(PDF形式:1.1MB)
工学的に最適といえない「超電導リニア」
2013年11月に阿部修治さんが『エネルギー問題としてのリニア中央新幹線』という論文を発表していました。
最初のページの終わりのほうで「工学的に最適な方式を選定したドイツの『トランスラピッド』と日本の『HSST』は 1990 年代までにほぼ実運用可能な水準に達したが,日本の旧国鉄から JR が引き継いで開発してきた独自方式の『JR リニア』は,そのシステムの複雑さゆえに開発は困難を極め,半世紀という長い時間と多額の研究開発資金を投じて,ようやく実用化の手前の水準にたどり着いたところである。」と書いていました。これは、10年まえの評価。
時速500㎞程度の速度で運行できる浮上式鉄道という技術的な目的に対して、JR東海の方式は「工学的に最適な方式」ではなかったという意味ですね。トランスラピッドは、エムスランドの実験線用車両であるTR-06型が完成したのが1983年、超電導リニアの山梨実験線用車両であるMLX01ができたのが1996年または1997年、円業路線用のプロトタイプでは、トランスラピッドは1988年のTR-07型で、超電導リニアでは、2013年のL0系なので、JR東海ができた1987年には、開発競争の勝敗はほぼ決まっていたといえるはずです(上海では430㎞で運転していますが、トランスラピッドは車両自体は時速500㎞で運行可)。
訂正:上の段落、「TR-06」と「MLX01」を営業用の原形車としましたが、営業路線向けの原形車両はそれぞれ、「TR-07」(*)と「L0系」です。訂正します。* ラルフ・ローマン・ロスベルグ著『磁気浮上式鉄道の時代が来る?』(訳本1990年、原著1989年の発行、p64~65)。なおこの本のp87から「エアクッション浮上車両と磁気浮上車両の技術データ」という実験車両38機種の写真入りのデータがあります。トランスラピッドの当時の最新の機種はTR-07がのっていますが、超電導リニアは1987年製造のMLU-002です。HSSTについては1988年製造で「横浜博89」で営業運転をしたHSST-05がのっています。これを見ても、常電導の方が実用化への開発でかなり先行していたことがわかります。
2022年度を、3年先延ばしにするような事態は、高温超電導磁石を使った走行試験のニュースが2005年11月に行ったと公表されている以外に公表されたことがなったことからすれば、予測できたことでしょう。
山梨県立リニア見学センター > "リニアの歴史"
この技術が高速で大量の旅客を輸送する交通システムの技術として「そもそも」無理があったのではないかということなんですが、この点に関しては、1977年頃にドイツのシーメンスやテレフンケン、スイスのブラウン・ボベリの3社が共同で超電導浮上方式の開発に取り組んだ結論として不適切な技術と判断していたし、日本航空も、たぶんそれより少し後だと思いますが、同様の判断を下していたと思います。
・大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』(公共投資ジャーナル社、1989年)、p37 ⇒ 超電導方式の欠点
・中村信二『HSSTの開発について』 ⇒ 参考
なお、この2つの文書で指摘されている技術的な欠点は現在時点の超電導リニアで解決できているわけじゃないし将来的にも解決できないと思います。
超電導磁石を応用した誘導反発方式のリニアモーターカーのアイデアはアメリカの技術者がオリジナルなんですが、アメリカでは70年代、そして90年代にも開発を手がけたのに結局途中で止めていますね。JR東海だけが拘っている広がる可能性が無い技術だと思います。
そんなもののために多くの方がリニアルートのために移転対象になり、すでに移転し、沿線では、地域が壊れてしまった地域もあるわけです。負けると分かっていたのに、戦前の軍部と政府が日米開戦を決定したのに似ているところがあると思います。
なお、大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』は、川辺謙一著『超電導リニアの不都合な真実』 の参考文献のリストにあるのですが、最も「不都合な内容」と思われる、ドイツが1977年当時に下した超電導リニア方式に対する評価について、本文中に記述がない点は不可解です。
参考
大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』、37pより
最近の超電導技術は進歩してきているが、以下のような欠点が解決されていない。
- 渦電流効果によるエネルギー消費が大きい
- 特に低速度で顕著にみられるブレーキ作用で運転条件が不利となる
- 浮上、着地システムや超電導冷却システムのような余分の車上ユニットが必要である
- すべての考えられる運転条件の下で、良好な乗り心地が得られる技術問題が解決されていない
- 乗客および持物に対する高磁場の影響が不明である
当時の結論は1987年に再度見直され、1977年の選択は間違っていなかったことが確認された。
関連ページ
- リニアを見据えては砂上の空論 絶対に無視できない超電導リニアの問題点 (2022/06/20)
[2023/03/22 追加] そもそも国交省の「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」については、開催状況についてさえ、いつ第何回の会合を行ったのか公表されていない部分があります。まったく新しい走行方式なのに。
- 超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会 (2) (2020/06/08)
- 超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会 (2020/05/29)