更新:2023/08/24
アメリカのリニア計画はどうなっているか?(4)
飯田下伊那にひきあてて
沿線の多くの地域と住民はリニアを利用できないのに建設工事の影響を受ける(ボルチモア市)
リニア中央新幹線は東山道開通以来の千載一遇のチャンス(豊丘村長)
ワシントンとボルチモアの間のリニア計画は、12通りの選択肢(計画案)と「建設しない」という選択肢の13の選択肢について影響を評価しました。影響評価をするのは事業者(BWRR社)ではなく、連邦鉄道局とメリーランド州運輸局。
図1の黄色は車両基地の候補が3つあることを示しています。図の左右の違いは上部(北)のボルチモア市内の駅の候補地が2つあることを示しています。この図ではわからないですが、赤丸をつけた付近でルートが少し違っていることを示したのが図2です。つまり、3×2×2 で12通りの組み合わせがあるということです。
図1
図2
ボルチモア市内の駅の候補地周辺の様子が図3。黄色の丸印が駅候補地(上が市中心部のカムデンヤード電停付近、下がチェリーヒル電停付近)。
図3
ボルチモアの駅はこういう感じになりますよと環境影響評価書に示された想像図が図4。
図4
JR東海は2013年5月に中間駅のイメージについて公表していたんですが、リニア中央新幹線の評価書では駅は〇印で示すだけでしたから、予定地の写真を背景に駅の建物や周辺設備の具体的な姿を合成した図4を見ると、日本よりずっと「丁寧」で「具体的」です。
で、ボルチモア市が建設反対の意見書を出したことについてはこちらでふれた通りです。
じつは、長野県内の明り区間では、方法書で示された3㎞幅のルートの中心線にたいして、準備書で公表されたルートは南側に大きくずれていました。どんないきさつがあったのか、年表にすると:
- 関連ページ:中間駅の位置は誰が決めたのか?
飯田市長が中心になってルートを南へ南へとずらしてきたことがわかります。その結果、飯田下伊那では人口が密集した地域を通過することになりました。
北条では、移転対象となった方の中には、どういう経緯でルートが北条に来たのかということについて、用地交渉にあたる飯田市職員が説明できない、これでは納得できないという方がおられました。最初は高森町のほうを通ると言っていたのが、何の相談もないままに、だんだん南に動いてきた。突然移転対象となった時は赤紙が来たようなものと思った。経済や社会でも100年に一度というような大変な出来事が毎年おこるような状況だが、はたしてリニアが本当にできるのかどうかと思う。なのに失敗した時に責任をだれがとるのかわからない。太平洋戦争では赤紙で招集された父親が戦死して、残された家族が苦労することがあったが、リニアのような公共事業も戦争のようなものだという方もいました。
飯田市が分譲した住宅団地が約30年足らずで、飯田市がルートについて無理を通した結果、約25戸のうち約20戸が移転対象になったのですから、飯田市には安心して家を立てれる場所がないことになる。この住宅地のある方は、「JR東海はお殿様だ、そこのけそこのけお馬が通るでしかたない」といっておられました。
なお、最初に公表されたルート上では、土地を提供するためかなりの面積で行っていた事業を止めてしまった方もあったそうです。
簡単にいえば、アメリカでは「市」や地方自治体が、住民に影響があるので建設反対だというけれど、日本では、「市」がリニアに対する幻想に固執して住民を蹴散らしたといえるでしょう。
地方自治の目的から大きく外れています。
リニア建設の目的としてJR東海が主張するものも、外部からの推測するものにも(*)、合理的なものがありません。本当に納得できるようなものはありませんね。「最後の帝国官僚」(『ZAITEN』2020年2月号)といわれる葛西敬之さんがJR東海の「天皇」として独断で決めたことであれば、不合理があっても不思議はないはず。そういう計画がまかり通るのは、日本の政治や制度や国民の態度が、それ向きになっているからじゃないか。
* リニア中央新幹線の建設目的について、社外の人が、JR東海は本当はこんなふうに考えているんじゃないかと推測する見方。
JR東海の初代社長だった須田寛さんは「世界でこれだけリニアに投資できる決断が可能なところは、これまでの段階では日本の東海道地域しかなかった…」(須田寛著『私の鉄道人生"半世紀"』イースト新書Q、2019年3月、p177)といっています。アメリカの東海岸も経済活動が活発なところですから、経済的な条件はそれほど違いはないけれど、どうも上手くいきそうにない。
合理性がない事業でもごり押しできるかできないかという点が日米の大きなちがいだと思います。また、いったん始めたことは、とんでもない結末を迎えるまでは、途中で止めることができないというのも日本の得意技。いつまでたってもそれじゃ困るんだけど…。
そんな、日本でも、静岡県は県民に迷惑がかかると、また環境保全の立場から、納得できる説明があるまでは理解できないと、着工を許さないし、西九州新幹線がリレー方式で開通したのは、佐賀県が地元に利益がないと協力的でなかったから。
公共性について補足 2023/08/26
このページの一番はじめのところで、「沿線の多くの地域と住民はリニアを利用できないのに建設工事の影響を受ける」という、ボルチモア市のリニアに対する批判を紹介しました。
リニアについていえば、大鹿や喬木や清内路や南木曽に駅があれば、飯田下伊那地域にとって、とっても利便性がありますが、そうじゃないということですね。にもかかわらず、水枯れや危険な残土置き場や工事車両の通行で迷惑を受けたり、土地や家を取られたりする。
JRの在来線や新幹線の並行在来線で第3セクター化した区間は、ローカル線で、高校生の通学とか高齢者の通院など地域ごとに地域内での移動に役立つもの(昔はもっと役に立っていたもの)です。これが、遠方まで続いているので、地域ごと地域内で利便性があって、さらにより広い地域から見ても利便性がある。利便性を公共性といいかえると、地域ごとに公共性があって、路線全体としても公共性がある。
ボルチモア市がいっていることはこういうことじゃないかと思います。
地域ごとに公共性のない路線なのに、国策だとか準国策だとかいって「公共性(公益)」の名のものとに田舎の住民を移転や残土置場の危険性などにさらすリニア計画について、戦争に似ているという感想は、大変に論理的であって、不思議はない。
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