更新:2020/08/21
中間駅の位置は誰が決めたのか?
長野県駅周辺 住民の声
駅の位置は主には3回かわっています。もともと「飯田市」が希望していたのは、飯田市の中心市街地の、JR飯田線の飯田駅に併設することでした。非常にわかりやすい要望だと思います。しかし、新幹線の駅が在来線の駅に併設された例はそんにあるわけじゃありません。
環境影響評価の配慮書が公表された2011年に、JR東海が公表した駅の位置は、「高森町東南部~飯田市座光寺」でした。高森町は下伊那郡で、飯田市の北隣の町です。ルートは3㎞幅、駅位置は5㎞直径の範囲で示していました。
JR東海 > "中央新幹線(東京都・名古屋市間)計画段階環境配慮書(平成23年8月)" > "第4章 事業実施想定区域および概略の駅位置の選定" の 4-24 ページ 。
当時の新聞記事は駅の位置を次のように書いています。
- "中間駅の候補地を高森町から飯田市北部とする"
(『朝日』2011年8月5日) - "飯田市座光寺ー高森町下市田付近を候補とする"
(『南信州』2011年8月9日) - "高森町や飯田市を中心とする地区を候補として提示"
(『日経』2011年8月5日)
名前があがった高森町のホームページの「リニア中央新幹線事業説明会 最近の動向について」には:
平成23年6月7日
JR東海が計画段階の「環境配慮書」を公表
JR東海は、計画段階において実施する「環境配慮書」を公表し、長野県内を除く東京・名古屋間の路線3キロ幅と中間駅の概略位置5キロ幅が示されています。その後、平成23年8月5日には、長野県分の環境配慮書が公表されました。その中で長野県内の中間駅について飯田市座光寺から高森町東南部が概略位置として選定されたことが明らかになりました。
と、書かれています。
興味深いことは、リニア推進一辺倒の論調の『南信州』と高森町が、「飯田市」を先に「高森町」をあとに書いていること。このあたりは、当時の高森町の動向と合わせて調べて見ると何か出てくるかも知れません。
8月の駅位置公表のあと、「飯田市」は、JR東海と会談し要望を出しています。
- 2011年9月7日、リニア中央新幹線建設促進飯伊地区期成同盟会(会長は飯田市長)は、JR東海に水源回避と中間駅の現飯田駅併設を求める
(『南信州』2011年9月10日 "リニア飯伊期成同盟会とJR東海が協議") - 2011年9月13日、飯伊地区期成同盟会とJR東海の2回目の会談
(『南信州』2011年9月15日 "リニア飯伊同盟会とJR東海が会談") - 2011年9月14日、飯伊地区期成同盟会の会長の飯田市長はJR飯田駅への併設断念を表明
(『南信州』2011年9月16日 "リニア飯田駅の現駅併設を断念") - 2013年5月1日、『南信州』が「リニア県内駅、元善光寺駅以西で調整」と報道
(『南信州』2013年5月1日 "リニア県内駅、元善光寺駅以西で調整")
このような経緯があったあと、2013年9月18日に、環境影響評価準備書とともに公表された駅の位置は、飯田市内、上郷地区飯沼の北条でした。
次の写真は、2011年にJR東海が公表した、駅位置の直径5㎞の範囲の中心付近の風景です。
JR東海が選んだ駅候補地
そして、現在の予定地の北条地区。
風越山トンネル入り口予定地から見た北条地区。赤い線がリニアルートの中心線。
こんな経緯があって、駅が北条にくることは決まったわけです。つまり、JR東海が初めに考えていた位置とは違う。説明会で、JR東海に、このあたりのことを質問すると、初めから位置は決まっていたと言います。まあ、3㎞幅の中に辛うじて入っているので、間違いじゃない。しかし、普通は3㎞幅の中心が本命と考えるべきでしょうね。
飯田市の駅周辺計画は空き地計画
飯田市は駅周辺整備としてどんなものを考えているのか。次の写真は、駅周辺整備の模型。駅の北側には、500台収容の駐車場やバスターミナル。南側には、「広場」と「魅力発信施設」。駐車場(250台)は、当面はイベントなどに使う予定で北側の駐車場で間に合わなくなったら駐車場として使うとのことです。市の予算で91億円ほどかかるそうです。(リニア駅周辺整備基本設計「飯田・リニア駅前空間デザインノート」)
駅周辺整備のデザインの目玉が木格子による大屋根です。魅力発信施設というのは、ガード下部分の観光案内所と小規模な建物に民間業者に出てもらって、飲食や土産物販売など予定しているようです。
このような整備が行われる場所は、現在は住民が生活の場としています。下の図は、JR東海が建設工事実施申請のとき国交省に提出した停車場平面図に駅周辺整備計画などを書き込んだものです。現在の住民が住んだり企業が使っている建物がちゃんと書いてあります。黄色が「駅周辺整備計画」、赤は「土地利用計画における重点協議区域」とされています。なお、新戸川という川が、駅構内予定地を流れているので、川の付け替え工事が必要で、その部分でも移転や土地が必要になりました。
駅周辺で移転対象になる建物は73棟。リニアの本体部分については12棟(住居は7棟)で駅周辺整備関連では61棟(住居とアパートが50棟)。高速道路からのアクセス道路の分も含めると、土地や戸建ての物件の権利者が、上郷地区で75、座光寺地区で36。集合住宅の居住者については、上郷地区が約70世帯、座光寺地区が約20世帯で、移転対象の世帯は200以上となる見込みです。
駅の位置や路線の位置の決定に「飯田市」が大きく関与したことは明らかだと思います。JR東海が最初に公表した位置は現在の位置より1.5kmも北でした。駅から約1㎞東に20数年前に飯田市が分譲した住宅団地があります。25戸のうち20戸がリニアのために移転せざるを得ません。
飯田市が分譲した住宅団地25戸のうち20戸が移転対象に。
北条地区の住民の方たちの声
○ 召集令状がきたようなもの
○ 重点区域は将来計画が描けない。場所が狭い。ある計画もあったが誰ものってこなかった。何もやろうとしないので、地主さんは、業を煮やして、しかたなく、マンションを建てることにしたんだろうと思う。
○ 駅周辺整備の範囲に、自宅、田畑、3棟のマンションの全部が入っている。行き場がない。私のマンション3つ全部をひっかけて道路にするという一方で重点協議区域にマンションができるという。誰がそんなことに賛成できるだろうか。
(参考) 7月から重点協議区域でマンションの建設が始まっています。この新たなマンションと取り壊しになる3棟のマンションの位置関係は:
取り壊しになる3棟のマンション
新たなマンションの建設現場と取り壊しになるマンション。飯田市の「まちづくり」には一貫性がないと言われても仕方ないと思います。
○ 以前の公共事業での土地の収用価格より安い。同じような条件の代替地の値段が現在坪9~13万。ところが、手放す土地の価格は坪9~10万円。これでは、借金するか、貯金を取り崩すか、アパート暮らしとか古屋を探すしかない。あるいは、土地の安い地域へ移転するかだ。あきらめている人が多いのではないか。飯田市の部長によれば、JR東海の指導がそうとうはいっているらしい。
○ 県道拡幅関連の移転対象の高齢者で飯田市や県と交渉を続けてきた人がいる。土地を買ったときより、今回手放す価格の方が安い。早く話を進めて欲しいと望んでいるが、担当者は予算がないという。それでは困ると言うと、他地域で県道の予算が余るので、それまで待ってほしいという。そんなことで事業ができるのか。もう少し腰を据えてやるべきと思う。移転したくてもできない。
○ 県道の拡幅はリニア以前から懸案だった。関連で移転対象だが、80過ぎて体も衰えてきている。工事をやるなら、健康なうちに早くやってほしい。移転したとしても建てた家にいく年住めるか分からない。
○ 覚悟を決め立ち退きを始めた人もいる。その人たちが途中で放り出されるようなことにならないよう、飯田市は、手を付けたところはちゃんとやってほしい。土地の値段や立ち退きの条件について当事者の声をしっかり聞いてほしい。
○ 駅前整備に6.5ヘクタールが必要とは思えない。もっとコンパクトで良いはずというが飯田市は必要だという。国の補助があるのかどうなのか、質問状をだしたが、そういう説明もはっきりしてくれない。6.5ヘクタール使っても、広場を5つも造るという。広場って結局は空き地だ。東京からの急ぎの客が広場で交流したりしているはずがない。降りたらすぐにどこかに飛んでいくというのがリニアの客だ。考え方がおかしい。
○ 1日の利用者6800人の根拠を示せといっても、説明できていない。駐車場の台数も750台から500台に減らしている。根拠が示せない駅周辺整備計画のために一生懸命生きて来た住民を追い出そうとしている。この計画そのものを止めてもらいたい。どこでも駅前計画は破綻している。市財政が悪化したところがそこらにある。駅周辺整備の費用は飯田市が出す。JR東海ではない。リニアができなければ飯田市は破産だ。
(参考)
(クリックで拡大)この資料は、環境省の "環境経済の調査・研究情報" の 「採択 番号5」「地方公共団体における地球温暖化対策実行計画等の実施に伴う環境・経済・社会への影響分析(神戸大学・小池淳司)」の「説明資料2/4 [PDF 3.32MB]」。神奈川、山梨、岐阜がそれぞれ独自と思われる方式で行った予測値と、赤色で示した「交通モデルを用いたリニア新幹線各駅の乗降客数の予測値」との差は、約8%大きい(神奈川)か約28%少ない(岐阜)か、ほぼ同じ(山梨)。長野の約倍という数字はかなり怪しいといえると思います。
○ 飯田線の乗換新駅で1500人の利用があると想定しているが、そんなことはあり得ないと思うし。高校生の通学利用以外は乗車は非常に少ない。また専門家は、河川の上の勾配部分で安全上問題があると指摘している。
乗換新駅の予定位置
(参考) 10月18日は飯田市長選です。立候補予定者は現職牧野氏と元副市長の新人の佐藤氏。佐藤氏は新聞のインタビューに飯田線の乗換新駅は止めてその予算を他に使うべきだといっています。飯田線の乗換新駅の中止が、市民、住民の共通した意見になっている一つの証拠でしょう。そして、駅周辺整備への批判も多いということの。
○ 長野県の建設事務所は中央高速のスマートインターからリニア駅までの道路を造る関連で、長野県の建設事務所は、私の所有する林のヒノキに無断で調査のためのカメラを取り付けた。抗議をしても、電話で申し訳ないという程度。また、県道拡幅で測量もさせたが、所有する不動産物件の評価について、その結果を出してこない。これでは協力などできない。
○ 静岡のことが随分新聞で報道されている。信濃毎日もしばしば取材にきてくれるが、駅周辺整備の問題もしっかり報道して欲しい。
○ 世界や日本の経済がコロナウイルスの感染拡大で大変な状況になっているし、人口減少社会に向かっている。株主総会でも批判があったようだが、この時期に、リニア新幹線を進めることに、不安や疑問を感じる。すでに中国ではリニアモーターカーが最高速度を引き下げて運転しているという。速いだけが取り柄のコンコルドも経済的に失敗した。いまでは海外ともスカイプなどで顔をみながら対話ができる。これからの時代にリニアが本当にいるのか。
○ リニア計画は少なくとも数年延びるだろうし、中止の可能性もある。南アルプストンネルを完成させここまでリニアが来るには10年以上かかるという専門家もいる。この話が始まって8年、生活が脅かされてオドオドして暮らしてきた。飯田市長はどんどん進めようとしているが、まだやるのか、もうやらないのか、このあたりで住民が納得するような方針を出してもらいたい。協力しかけて中途半端になっている移転者の面倒を最後まで見ること。嫌だという人には、きちんとした説明をして、今後どうするかということについて、きちんとした方針を示すべきだというのが皆の意見だ。
○ 駅部分に降る雨水の排水について、天竜川へ直接放流するように求めてきたが、いまだに土曽川へ放流するといっている。
○ 風越山トンネルの坑口付近は、急傾斜危険区域。工事で、斜面が崩れるのではないかと心配。また、新戸川は、飯田線の築堤の暗渠を流れている。この沢の防災対策はまだ不十分。JR東海でも長野県でもよい、とにかく対策をしないと、大きな災害がおきないか心配だ。シールド工法へ変更で、残土を運ぶベルトコンベア用のトンネルを崩壊の危険のある山に掘るという。風越山トンネルだって本当に掘れるのかどうか。
(参考)風越山トンネルについて
当初、風越山トンネルは座光寺唐沢地区の土曽川斜坑と、黒田斜坑口からNATM工法で掘削の予定でした。しかし、黒田斜坑と北条の本坑口の部分では水の利用者が多く、より水への影響の少ないシールド工法に変更になりました。シールド工法では本坑口から残土が出てくるので、その搬出が問題。国道方面へは住民との約束で出せないし(たぶん駅部の工事の邪魔にもなる)。飯田線をくぐるのガードが2.8mしかなくフルーツライン方面にも持ち出せません。そこで口径の小さなトンネルを本坑口付近から土曽川斜坑ヤードの位置まで掘って、ベルトコンベアを設置して搬出する予定で、現在長野県と協議中。しかし、このトンネルを掘る山の斜面は崩壊の危険があるとされています。
この風越山トンネルについては、鉄道運輸機構の2020年度発注見通しにのっています。それによれば、「入札予定あるいは契約予定時期」は20年度の第4四半期。工期は80か月(6年と8か月)です。2021年4月から工事を始めたとして、工期のお終いは2027年年末になってしまいます。(鉄道・運輸機構の発注見通し)
意見をお聞きするとき必ずでるのは、飯田市長は自身で説明に来ないということ。これまでそうとう回数の説明会があったはず。説明会に2度きたが、1度は、30秒だか3分いただけで、会議があるからと中座したと。この時は、全国市長会議が東京であって、その日は東京から戻ってきて、ちょっと顔を出して、またすぐに、東京へ戻ったといわれています。こういう人にとってはリニアがあればありがたいでしょう。市長が、北条に来れないのは、なんでルートが北条に来たのか、突っ込まれるのが恐ろしいからなのかも知れません。
その市長は、移転者の最後の一人まで寄り添うといっています。ある住民のかたは、「寄り添うってどういう意味?」って、『中日新聞』の記者さんに質問しています。
リニア本体や駅周辺整備に関連する住民の中には、立ち退きに応じた方も少数いますが、立ち退かないとの意思を固めた方がいます。これから飯田市が短期間で用地を取得することはきわめて困難といわざるを得ません。
当初の駅周辺の工事の日程では、駅部や路線の用地取得は2019年度の第2四半期に完了していたはず。しかし、用地取得はほとんど進んでいません。また、工事は2018年度の第3四半期から始まっていたはずですが、何も行われていません。駅部分の完成は、よほどの工事期間の圧縮をしないと2029年以降になってしまいます。
(画面クリックで拡大) JR東海 > "中央新幹線(品川・名古屋間)に係る事業説明会の資料について(平成26年10月〜12月)" の 「(平成26年11月14日)南信州・飯田産業センター」の 「スライド [27.1MB]」 より
JR東海は用地などの補償は国の基準に従って適正な金銭保証をするといっています。他地域はよくわかりませんが、北条や座光寺地区に関しては、路線位置はJR東海が一方的に決めたのではなく、「飯田市」が大きく関与しているのですから、今の生活が移転先で再建できる程度の上乗せを飯田市が独自でやるべきです。その気持ちがないなら、リニア計画の中止を求めるべきだと思います。
関連ページ
- リニア関連事業に関する北条地区住民説明会、2018年6月7日
- 地場産業センターの準備書説明会 (2013年10月10日)
- 飯田市座光寺小学校の準備書説明会 (2013年10月15日)
- 「あおぞら」2019年9月号 (共産党黒田支部・飯沼支部発行) おもて | うら