更新:2024/09/02

今日は何の日、2024年9月2日

 NHK第1ラジオの「きょうは何の日」で、「世界発のリニアモーターカーの有人走行試験が宮崎日向市で1982年に行われた日」といっていました。ネットで調べてみると、確かに、「国鉄が宮崎県日向市で開発中の磁気浮上式リニアモーターカーが、世界初の有人走行に成功」と書いているページが多いです。

ところが、公式にはそんなことはいっていない

○ リニア推進に前のめりで転びそうな山梨県立リニア見学センターの「リニアの歴史」には、そもそも「1982年」の項目がないです。

○ リニア中央新幹線建設促進期成同盟会の「あゆみ」も同じです。

○ JR東海のリニア中央新幹線の公式サイトの「山梨リニア実験線について」も「02 山梨リニア実験線の歴史」の横に流れる年表にも「1982年」はないです。

○ 鉄道総合技術研究所(JR東海とともにリニアの開発をしている)の「超電導リニア開発の歴史」には、「1982年9月」として「2両連結有人走行開始」と書いてあります。

実用化が早かった常電導方式

 1971年にドイツのメッサーシュミット・ベルコウ・ブロム社が、常電導方式の有人のリニアモータカーのデモ走行をしていました(*)から、1982年の宮崎実験線(日向市)の「世界初の有人走行に成功」は事実としてはおかしい。

* Youtube "The Transrapid History"(「トランスラピッドの歴史」)

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("The Transrapid History"より) メッサーシュミット・ベルコウ・ブロム社(MBB)が1971年に公開した車上一次方式の磁気浮上式車両。下は運転台ですから有人ですね。

1970年代、超伝導方式はボツ判定

 実際には有人走行試験はしなかったようですが、1972年にはドイツのシーメンス社などが、4人ほどが乗れる、超電導磁石を使う磁気浮上式の車両の走行試験を始めました。しかし、超電導磁石を用いる方式は経済的、技術的に種々の欠点がある(*)ことから開発を中止し、常電導方式の開発グループに合流し、2002年に上海に常電導のトランスラピッドの営業路線を実現しました。

* これらの欠点は、JR東海のいまのリニアで、克服できているのかといえば、できていません。日本でも、古くから、鉄道技術者の超電導方式への批判はありました。

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("The Transrapid History"より)シーメンス社の研究所のテストコースを走る試験車両。コースは直径約290mの円形で軌道は45度の傾斜がありました。地上一次方式と車上一次方式の2つの方式を試験。

 1973年にはクラウスマッハイ社のトランスラピッド04型が有人で250㎞以上の速度で走っていました。クラウスマッハイが開発した常電導の方式を参考に、日本航空が開発を始め、のちに中部HSSTが完成させたのが常電導のHSST=名古屋のリニモ。2005年から営業運転をしています。

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("The Transrapid History"より) 1973年、ミュンヘンのテストコースを走るトランスラピッド04型。人が乗っています。国鉄の超電導方式より10年先をいっていたようです。

超電導方式はアメリカのアイデア
しかし、開発も採用もしなかった

 超電導磁石を用いた方式は、そもそもは、1967年に発表されたアメリカのアイデアです。1970年頃、アメリカでは、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、フォード自動車が研究をしましたが、開発はしませんでした。

 アメリカでは80年代から、8つほど浮上式鉄道の構想がありました。一つを除いて、ほかはトランスラピッド方式の採用を想定していましたが、超電導方式の採用を想定したもう一つの構想も、いずれも実現していません。現在、ワシントンDCとボルチモア間の約60㎞にJR東海方式の超電導リニアの計画がありますが、環境影響評価の段階で座礁しています。環境影響評価に対する自治体の意見の中で、工事などで迷惑を受ける住民のほとんどは利用する可能性がないという批判は注目すべきでしょう。

 中国でも、磁気浮上方式が評価されなかった証拠として、急速に拡大した高速鉄道網は従来の鉄のレールと車輪を使う方式で建設されました。また、上海のリニアモータカーは、多大なコストと環境悪化への住民の批判から、延伸できませんでした。

関連ページ:"中国がリニアで攻めてくる?"

都会にメリット、田舎は迷惑

 リニア中央新幹線は、静岡県の大井川の水資源問題はじめとして、岐阜県瑞浪市大湫の水枯れなど沿線各地での水資源への影響が心配されています。東京と名古屋、大阪間で移動時間が短縮できるというメリットと、広域にわたる水資源への影響というデメリットを比較すれば、時間短縮なんかそれほど価値があるはずはないです。大湫の問題では、リニアのトンネル掘削をあきらめることを考えれば、水資源の回復できる方法もあるのではないかと思います。JR東海の考えているやりかたは、トンネルそのものを守ることだけのように思います。

 沿線の住民のほとんどはリニアを利用しないのに、住民が日常的に必要とする水がなくなることを我慢しろでは、ふざけた話です。沿線各地の個々の問題のようにみえるかも知れませんが、全長286㎞という路線の沿線は広範囲になります。工事で万が一水枯れがおきたら、代わりの水源をみつけてやるという方針の開発事業は、もう止めるべきでしょう。万が一ではなく、かなりの確率で起きるはず。

余談です。飯田市は、水道水源に影響があるという理由で、路線を約1㎞南へずらさせました。なぜ飯田市だけがこういうことができたのか不思議です。飯田市ができたのだから、他地域でも路線を水源に影響のない位置までずらさせることはできたはずです。

 水の問題以外にも、残土と要対策土の問題も、リニアを利用しない田舎の住民が迷惑を受ける方法で処分されるケースが多いです。

 この誤った情報の発信元はわかりません。しかし、NHKは放送する事実を確認しなくてはならないはずです。

 NHK(*)が誤った情報までもちだして応援したとしても、そんなふうにみえてしまうのでいうのですが、リニア中央新幹線の失敗は目前に迫っていると思います。

* 「今日は何の日」はNHKラジオの『マイあさ』(2019年4月~)の中で流れています。ウィキペディアによれば、以前の『NHKマイあさラジオ』(2015年3月30日~)や『ラジオあさいちばん』(1999年4月~)でも流れていたとしています。JR東海はリニアを日本独自の技術であるといっていますが、それと呼応しているかのようにみえます。

(補足) 同じようなことを書いていたような気がしたので、念のため調べたら、2022年9月2日 に同じようなことを書いていました。世界初ではない証拠として、1979年のハンブルグ博覧会で5万人を運んだトランスラピッドTR-05型と1980年にスウェーデン国王夫妻が試乗した日本航空のHSST-02の例を上げています。

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