更新:2024/11/11

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹のリニア試乗記

 『JBpress』というサイトに、"【試乗記】薄汚れるほど実験進むリニア中央新幹線、毎日2000kmの試験走行で「もうここにある未来」"(11月5日) という記事、山梨実験線の試乗記がのっています。

 書いているのは、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志さん。

 杉山さんの結論としては、「リニアは、技術的には、未来のものではなく、もう今ここにあるもので、薄汚れるぐらいまで走り込んでいる」、つまり十分に実用段階にあるんだということ。

「リニアは、もう薄汚れるまで走り込むことのできる、現実の技術だ」

 東海道新幹線なんかに乗るときに思うんですが、毎日毎日走っているはずなのに、薄汚れたという感じはないですよね。車体の外観が。東海道新幹線も現実技術なんですよ。薄汚れているかどうかが、その技術の完成度を示すわけはないです。つまり、それは、車体の外部の清掃作業が行き届いているかいないかの問題です。いってみれば、リニアの場合は、いまだに、開発すべきことが多すぎて、車体の清掃作業まで手が回らないことを示しているのかも知れない。それか、地球を何周分とかいうような走行距離の実績だけをかせぐ試験に開発担当者たちが、あほらしくなっていて、車体をきれいにするような気持ちになっていないのかもしれません。

車両に積載したガスタービンで発電

 ワイヤレス給電の実用化はできたといわれているんですが、実際には、まだガスタービン発電機を積んで走っている。その排気ガスですすけているんだそうです。

 ほかに、空気抵抗を減らす車体表面に貼るフィルム(シート)の試験もしているから、汚れて見えるんだといっています。そして「こういったことはもちろん営業運転になるとなくなる」んだそうですから、やっぱり、実用化までには、まだまだやることがいっぱいということですね。

「車内の居住環境の改善はこれから注力する」

 車内は「実験線であるためか、あまりゴージャスな感じはしなかった」と。まあ、快適さの一つなんですが。あまり快適じゃないと。せっかく試乗できたのにそんな評価してどうなんでしょう?

 リニア批判派や反対派を試乗会に招待して、宗旨替えさせることができるくらいの乗り心地なら、やってみたらと思います。招待してくれたら、行きますよ。

「けっこうゴオーッと音がする」

 これは車内騒音。山梨見学センターのそばの道の駅の駐車場で、リニアの騒音は聞けますが、ここでもそうとうにすごい音がします。これは、沿線での騒音です。

関連ページ:山梨リニア見学センター付近の騒音

よほど深刻、振動の問題

振動についてはピタッと揺れないのかな、と何となく思っていたが、そうでもなく、予想したよりはブルブルと左右に揺れた。これは側面のコイルの施工などにわずかな誤差があるためとのこと。

 車内の「揺れ」の問題。「側面のコイルの施工などにわずかな誤差がある」って、たった42.8㎞の実験線で、もう二十数年もやってるのに、施工によるわずかな誤差が修正できないってことでしょ。つまり、保線作業の精度が非常にシビアで困難なことのあらわれですから、これは、まずいんじゃないでしょうか。

 それはともかく、「ブルブル」というのは、実は保線の問題じゃなくて、浮上用コイルが側壁に規則正しく並んでいること、そのことに基本的な原因があるはず。いってみれば、規則正しいデコボコ道を走るようなものです。ガイドウェイの開発にかかわった人によれば、たとえば時速500㎞で走るときには規則正しく並んだコイルから毎秒309回の衝撃を受けるそうです。つまり309ヘルツの振動を受けるので、車体に共振する部分があれば振動が起きるそうです。

 これは、軌道側にループコイルを並べて使う誘導反発方式の超電導リニアの致命的な欠点だと思いますね。

関連ページ:リニアのレールの継ぎ目

 「左右に揺れた」というのは、原因は、リニアは車体を「磁気バネ」で支える仕組みなので仕方のないことです。磁気バネの一方の端は車体で、もう一方は軌道で、間は「浮上しているので」機械的につながっていません。つまり自動車や鉄道車両のように車軸と車体の間に揺れを小さくする仕組みを入れるわけにもいかない。外力が加われば車体は揺れるしかない。

超電導磁石にニオブチタン合金は使っていない!

 杉山さんは、非常に重要なことを書いています。

車体側には超伝導コイルが付いている。この超伝導体の材料はイットリウム系やビスマス系の酸化物超伝導体ということだ。

 であれば、ニオブチタン合金は使わないので、液体ヘリウムはいらないことになります。「リニアに必要 ヘリウムとヘリクツ」を掲げる当サイトとしては気になるところです。

 で、2023年3月の国交省の超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会第21回「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」の開催結果について別添資料(PDF形式:1.1MB):「超電導リニアに関する今後の技術開発について」によれば、開発課題として「高温超電導磁石の運用安定性の検証」について「一定レベルの技術的な成立性の見通しが得られたため、引き続き走り込みを行うことで、複数台の高温超電導磁石において検査周期相当の走行を実施し、運用安定性の検証を行う。」としています

 少なくとも、技術評価委員会への説明は、「引き続き走り込みを行うことで、複数台の 高温超電導磁石において検査周期相当の走行を実施し、運用安定性の検証を行う」であって、すべての台車について、つまり全面的に高温超伝導磁石に置き換えてという内容じゃなくて、まだ実験中であるわけです。

 杉山さんのレポートはほんとうでしょうか? 仮に、2027年を営業開始とすれば、ニオブチタン合金の超電導コイルを液体ヘリウムで冷やすしかないというのが現状だと思いますね。

 JR東海の情報の公開の仕方には、常に不透明な部分があります。走行技術そのものや、建設計画に、かなり無理があることの現れじゃないかと思います。

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