更新:2024/12/25
JR東海初代社長・須田寛氏が死去
「世界でこれだけリニアに投資できる決断が可能なところは、これまでの段階では日本の東海道地域しかなかった…」
JR東海の初代社長を務めた須田寛氏が13日死去しました。
◆ ◆ ◆
12月24日の報道から
- 『朝日』7面 "評伝:新幹線の可能性追い求め 須田寛 JR東海初代社長死去"、30面 "須田寛さん死去 JR東海初代社長 シルバーシートや青春18きっぷ 実現"
「『技術も日進月歩で変わる。次のシステムをめざすのは当然』とリニア中央新幹線の可能性も語ることを忘れなかった。災害対策の面からも必要だと強調。」 - 『中日』1面 "須田寛さん死去 93歳 JR東海 初代社長"、6面 "新しい観光 中部に浸透 須田寛さん 魅力の発信に力 「産業観光」先駆け 中部財界悼む声"、"鉄道愛した無欲の人 須田寛さん 民営化後のかじ取り"
「…ソニーを創業した井深大さん(故人)を訪ね、リニアの将来性を相談した。 中央新幹線をリニア方式か新幹線方式かどちらにするか迷っていた須田さんに対して、井深さんは『超電導はまだ分からない技術だが、20年に1割はレベルが進化していく。リニアでやった方が良い』と助言を得た。」
※ 井深氏は山梨実験線で試験走行が始まったころの1997年に死去。相談はそれより以前の話で、技術的には本当に未知数の時期のアドバイスなので、超電導リニアの研究は続けた方が良いというほどの意味だったんじゃないかと思いますね。⇒ 産業観光 - 『南信州』7面 "(死亡記事)須田寛さん"
- 『日経』17面 "評伝:須田JR東海初代社長 死去 鉄道愛したアイデアマン"、46面 "須田寛氏死去 JR東海初代社長 93歳"
『日経』の評伝、「『リニア中央新幹線に乗ることも産業観光になる』とも話していた。」
たとえば長野県駅は完成したけれど、結局リニアは来なかった時には、「未成線」としてアピールしたら良いという冗談をいう人もいないわけじゃありません。失敗したプロジェクトの産業遺産です。 - 『信毎』24面 "須田寛さん死去 JR東海初代社長 93歳"
- 『読売』9面 "評伝:鉄道好き サービス数々 須田寛氏 JR東海 礎築く"、28面 "須田寛氏死去 JR東海初代社長 93歳"
「各地で建設が進むリニア中央新幹線にも当初から意欲的な姿勢を示した。」 - 『毎日(web版)』 "JR東海初代社長・須田寛さん死去 93歳 「のぞみ」導入"
リニア中央新幹線とのかかわりについては何も書いていないですが、(社長就任)「当時のJR東海の取締役の一人が『国鉄改革三羽ガラス』と称された葛西敬之氏(2022年死去)だった。国鉄時代に理事を務めた須田さんは分割には消極的で、葛西氏とは『当初はギクシャクしていた』(JR東海関係者)…」 - 『産経』8面 "須田寛さん死去 JR東海初代社長 93歳"
「リニア中央新幹線の建設計画実現に向けて尽力した。」
12月26日の報道から
- 『中日』1面 "中日春秋"。 「JR東海初代社長の須田寛さんは国鉄時代、運賃値上げに関わる仕事が多かった。認めてもらうため各方面に頭を下げる…」
- 『中日』7面 "自由席:遺伝子"。「シンデレラ・エクスプレス」とか「青春18きっぷ」など須田寛氏のアイデア。「JR東海には、確かに須田さんの遺伝子が引き継がれている」って書いていますが、長く名誉会長を務めた葛西敬之さん自ら「最後の帝国官僚」といっていました。JR東海では葛西さんの遺伝子も確実に引き継がれていると思います。
- 『南信州』7面 "飯田線愛で意気投合 JR東海 ファンクラブが須田さん追悼"。
12月28日の報道から
- 『中日』5面 "社説:須田寛さん死去 鉄道、観光で新機軸"。
◆ ◆ ◆
須田さんは、2015年8月15日の『日経』(長野経済面)でインタビューに、「動かなくてもできるビジネスと違い、観光は行かないと話しにならない。リニアの効果を大きくするためにも観光の役割が大きい」、「交通機関同士が競争する時代は終わった」などと語っていました。観光だけのためならリニアはどう見ても過剰投資だし、トンネルが多く観光路線としては不適切。ビジネスにも必要ないとすればリニアってほんとうに意味があるの?と思いましたね。
2015年9月2日に須田さんは飯田信金主催の「リニアを見据えた観光フォーラム」で講演をしました。活舌が良くて早口で喋りまくる元気のよいお爺さんという感じでした。
各紙の評伝はリニアとの関係について触れたものもありますが、死人に口なし。
須田さんは生前の2019年9月に出版した『私の鉄道人生"半世紀"』(イースト新書Q)という本の中で「世界でこれだけリニアに投資できる決断が可能なところは、これまでの段階では日本の東海道地域しかなかった…」(p177)といっています。リニアの工事実施計画を国交省が認可したのは2014年10月17日でした。
通常の高速鉄道だって、アメリカのテキサス新幹線を見ても、民間の投資が集まらないのが現実です。それだのに、少なくとも、リニア中央新幹線という事業を国は認可して工事は始まっています。現在、完成できるかどうか、分からなくなって来てるんですが。須田さんのこのコメントは結構、意味が深いと思いますね。
必要がなくて、過剰なインフラと批判する経済学者もいますからそうなんでしょう。経済的にみて必要もないのに、そして、つくることでいろいろな被害が出てくるのに、国が認可しちゃって、建設できてしまうのが、「底が抜けた国家」日本であって、たまたまJR東海の経営する地域が東海道地域だったという意味にも取れますね。環境政策が世界の 中ではかなり遅れているという条件もあります。そして、葛西敬之氏と安倍晋三氏の関係があってこその。それと、なんだか、東海道新幹線が儲かっているのは、日本の経済活動は現在でも無駄をしているんじゃないかと…。
[追記 2024/12/26] 産業観光(国交省 都市・地域整備局「産業観光ガイドライン」)という立場からすれば、トンネル掘削で古い宿場街と周辺の農地を含む地域である、瑞浪市大湫で井戸やため池の水位低下や水枯れ、さらに地盤沈下まで引き起こしているリニア新幹線はちょっと問題あるんじゃないのと言わざるを得ません。また、明り部で地域の集落を壊すことも、たとえば長野県駅周辺はそうですが、残っていた伝統産業を壊してしまう可能性があるわけで、たぶん、産業観光という考え方とリニアだとかメガリージョンという考え方は相容れないものだろうと思いますね。
EOF