更新:2025/01/29、補足 2025/02/15
駅工事の要対策土使用について長野県がJR東海に助言
土曽川の橋りょう工事で要対策土を使用するつもりなら、リニア計画全体を中止すべき
リニア新幹線の長野県駅の工事で要対策土を使用する問題について、長野県は1月27日にJR東海に対して、助言を通知しました。
要対策土の使用についての冒頭部分:
(Ⅱ土曽川橋りょう橋脚での要対策土の使用) 「事業者が、実行可能な範囲内でできる限り環境への影響を回避・低減するという環境影響評価のベスト追求型の視点に立てば、土曽川橋りょう周辺は、住居が多く存在し、地下水位が高く水利用もあることを踏まえ、本来は、当初計画どおり現地発生土の使用が好ましいと考えられる。その上で、要対策土の使用に当たっては、環境保全計画書に記載している内容に加え、以下アからサに記載の対策を講じること。
助言は全体としては環境影響評価技術委員会(環境影響評価について審議する委員会)の意見に沿ったもので、良識のある事業者であれば、人の住むところで要対策土を使用すべきでないということを求めていると解釈し、使用を断念するはずです。ここで、使用するようなことがあれば、JR東海には安全性に対するきちんとした考え方がないと断言せざるを得ないと思います。安全性を最大限に重視しないことは、リニアの走行技術そのものにもあるはずですから、つまり、もしも、土曽川の橋りょう工事で要対策土を使用するつもりなら、リニア計画全体を中止すべきです。
助言は、「橋脚基礎部において要対策土を使用するに至った経緯」について「環境保全計画書に追記」せよともいっています。これまでに、どれだけの候補地を探したとか、それでも見つからないなど、これまでの経緯の説明について、技術委員会は再度不十分だと指摘してきました。これまでに3000万㎥の要対策土は専門の処分場に運んで処分できています。安全に処分できる場所を本当に探したのかどうかという点への疑念です。
そもそも、286㎞の全線の86%がトンネルになる計画なんですから、自社で要対策土の処分場を設けて処分する計画があってあたりまえでしょう。そして、その処分の場所や方法について環境影響評価の対象にすべきだったはずです。そこまで含めてのリニア中央新幹線計画とすべきだったのです。
土曽川橋りょう工事に要対策土を使用するにしろ、断念するにしろ、JR東海の「何とかなるさ」(*)と始めたリニア中央新幹線計画の、いいかげんさ、杜撰さは明らかです。ベストの追及などしていないのです。
* 『毎日新聞』2024年5月10日 "「リニアはつまらない」 鉄オタ・石破茂さんが嘆くワケ"
なお、「リニアの玄関口に有害残土を持ち込まないで!」のオンライン署名は継続中です。賛同いただける方は是非とも署名をお願いします。
- オンライン署名:リニアの玄関口に有害残土を持ち込まないで!
環境政策や環境影響評価制度が遅れている
県の助言は、土曽川の要対策土の使用についての部分は、第1項目として(*)、環境への影響を考える点でJR東海の計画は非常識なものと指摘して、以降で、入れるならばこういうふうにやってよねという部分につづきます。『信毎』28日2面 "「要対策土の影響 回避・提言を」 県「助言」通知 JRへ追加対策要求"、"県「かなり深い検討した」 住民「使用前提 愚の愚だ」" が伝えるように長野県としては現在の環境影響評価の制度の中では最大限に努力したと思います(**)。駅工事で要対策土を使うようになった経緯を説明することを求めている点が重要なのにその点に記事は触れていませんね。
(2025/02/15 補足説明)
- * 「第1項目として」は、憲法でいえば「前文」にあたる部分という意味。
- ** 「長野県としては現在の環境影響評価の制度の中では最大限に努力したと思います」の「努力」が何のために行われたかが問題。長野県技術評価委員会は環境の立場から、JR東海の不十分な説明に納得せず、普通は1回で終わる審議を継続させ2回の審議をしました。1回目の会議録、2回目を傍聴しましたが、「助言」本体には、委員による重要な指摘が反映されています。しかし、長野県は、「助言」の送付を知らせるホームページに「助言」のほかに、「プレスリリース資料(キャッシュ)」を掲載。そのなかで、「助言のポイント」として「橋脚基礎部は、構造的に十二分な対策がとられていることを県においてもチェックしています。」と書いています。「助言」本体の内容と技術委員会の委員の発言(2024年9月27日会議録、2024年11月14日会議録)によれば、「脚基礎部は、構造的に十二分な対策がとられている」と委員は考えていないことは明らかです。つまり、長野県のリニア推進の姿勢と、技術委員会の環境の立場からの意見の板挟みとなった環境政策課の職員が「最大限に努力」したということです。また、これは推測ですが、「助言」を作成する過程で、技術委員会がしっかり抵抗したのではないかと思います(1回の審議では足りず、2回目の審議でも委員会がJR東海の説明に納得できなかったという事実だけでも、担当者にはプレッシャーになったとは思いますが)。ようは、環境の立場からのみ助言すればよいのだし、どっちみちJR東海は聞く耳を持たないので、またそういう建前だけの無駄な制度になっているので、環境保全の立場からのみ書けばよいのであって、JR東海に忖度する必要性はまったくないはずですね。なにをムダに「かなり深い検討をした」(『信濃毎日』28日)のか、まして、それを「自負」(『信濃毎日』28日)するべきことでもない。しかし、助言の送付を伝える新聞記事(『信濃毎日』28日、『南信州』29日)を読ん読者は、「助言」が「脚基礎部は、構造的に十二分な対策がとられている」と書いていると理解してしまでしょう。なぜなら、記事を書く時は、「プレスリリース資料」のようなものに書かれている内容が記事内容として利用されることが普通なのだそうです。
記事によれば、飯田市長は「助言が『本来は当初計画通り現地発生土の使用が好ましい』などと言及している点を『しっかりした対応を求める県の姿勢が現れた』と評価し、JRに『助言を真摯に受け止めて誠実に対応してほしい。それに尽きる』と」述べたそうです。市長として「本当は要対策土は使って欲しくない」という具体的なコトバがないこと、そして、「それに尽きる」という部分のために、長野県任せと受け取らざるを得ないです。市民の立場にたつなら、「本当は要対策土は使って欲しくない」とまずいうべきだったと思いますね。市民の安全を守るべき立場にあるのに、無責任すぎます。「地域振興はリニア任せ」の飯田市長は、「市民の安全は長野県任せ」という点でも一貫性があってあきれます。
先月亡くなった、JR東海の初代の社長を務めた須田寛さんは、生前2019年の著書で次のように述べています。:
「世界でこれだけリニアに投資できる決断が可能なところは、これまでの段階では日本の東海道地域しかなかった…」
アメリカの環境影響評価制度では、環境影響評価書の草稿(日本の場合は準備書)に対して事業計画や環境問題に関心のある人は意見を述べることができます。自治体は(基本的に関心のある人は誰でもですが)、建設を中止するように求めることができます。米を含み世界中の主流の計画段階環境影響評価制度では、調査の結果、問題があれば、事業の計画変更や中止もあり得ます。意見の中で事業の中止を求めることができます。
JR東海が関わっている、ワシントンDCとボルチモア市間の超電導リニア(SCMaglev)計画について、ボルチモア市、グリーンベルト市などは建設の中止を求める意見書を出しました。それ以外の批判的な意見も多く、連邦鉄道局が環境影響評価の手続きを2020年8月に停止して以降は計画は進んでいません。
日本では事業計画が決定してから環境影響評価が行われます。問題があったとしても、基本的に事業者は指摘を聞き流すことができます。静岡県のように河川使用許可のような許可事項に関わる部分では地方自治体は頑張ることができるはずですが…。環境に対する政策や制度が世界水準からずいぶんと遅れていることも、「世界でこれだけリニアに投資できる決断が可能なところは、これまでの段階では日本の東海道地域しかなかった…」ということの一つなんだと思います。
社会や環境への影響を総合的に見た場合、超電導リニアというシステムは、最新の先端技術じゃなくて、遅れた鈍重な技術といって良いと思います。さっさと中止すべきです。
瑞浪市大湫の地域破壊について、JR東海は、どう責任をとるんでしょうか?
このリニア計画は失敗は確実ですから、JR東海としても、やらなきゃよかったはず。後始末をかんがえれば、早々に撤退を決定した方が良い。
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