「35mmレンズ」使用はJR東海の明白な「誤り」

 長野県の環境影響評価の平成25年度第7回技術委員会のページの「会議資料」の「資料1補足資料」の「資料2 準備書についての技術委員会等集約表(第3回審議分まで)(案)(PDF:653KB)」というファイル。39ページの亀山委員長の「第2回審議後追加意見」は次のようなもの。

・準備書8-5-1-29~44ページのモンタージュ写真は、いずれも画角が広いためにモンタージュ写真としての臨場感がない。人間の目は特定な物を見るときには注視するので画角はより狭いものとなる。つまり、望遠レンズで見ることになる。そのため、画角を狭くしたモンタージュ写真を示す必要がある。また、写真の印刷画面も、より大きくする必要がある。(第3回資料1 No.65)

 それに対するJR東海の答えは、

・現況写真の撮影にあたっては、自然環境アセスメント技術マニュアル(財団法人自然環境研究センター1996年9月)及び長野県環境影響評価技術指針マニュアル(平 成19年8月)に基づき、撮影範囲が人間の視野に近くなるよう35mmの広角レンズを使用しました。
・実際の視覚的印象に近いとされる四つ切サイズの大きさで印刷したフォトモンタージュを第3回審議資料1-9にお示ししました。

 このJR東海の「35mmの広角レンズを使用しました」という見解は明らかに「誤り」だと思います。実際に調査をした人物に確認したのか大いに疑問です。少なくとも私が現地を調査した範囲では、28mm相当の画角で提示されているものが大半であることは明白な事実だと思います。ざっと思い起こした範囲でも、「小園こども広場」、「天竜川右岸堤防」については、複数の斜線方向の被写体の同定が容易だったので撮影位置が特定できていることから 28mm相当であることは確実です。撮影位置が同じで写っている範囲が同じであれば、同じ画角のレンズです(≒同じ焦点距離(相当)レンズ)。35mmレンズで撮影した画面の範囲にはより広い画角の28mmレンズで撮影された映像は含まれないはずです。

 また、「撮影範囲が人間の視野に近くなるよう」という部分。撮影範囲は、レンズの焦点距離が変わっても同じにできます。それは撮影位置を変えればどうにでもなります。正しくは、言い換えると問題点は、「人間の遠近感に近くなるように」しなければならないということです。JR東海の書き方は不正確すぎます。

参考

参考画像


(準備書本編で使用したもの)


(新たに技術委員会で示したもの)

 明かに同じ原版を使用しています。この件については、時間があれば再調査し報告したいと思います。

補足 技術委員会に新たに示した 四つ切サイズというのは 305mm×254mm です。引き伸ばし倍率は、横については、305÷35≒8.7、縦については、254÷23.5≒10.8 です。横がトリミングされた(2:3の原版ではこれが普通)と考えて引き伸ばし倍率を縦を基準に 10.8倍 とすると、四つ切での適切な鑑賞距離は 35mmレンズなら 35×8.7≒378mm ですから、妥当なサイズといえます。28mmでも、28×10.8≒302.4mm ですから及第です(参考にあげた「広角レンズの遠近感描写のメカニズム」参照)。準備書のサービス判同等とは異なり、中央部をあるいは一部分を注視すれば圧迫感を感じる可能性が高くなる評価地点もあるのではないかと思います。

(訂正 2014/03/28) 「横がトリミングされた(2:3の原版ではこれが普通)と考えて引き伸ばし倍率を 8.7倍 とすると」は間違いでした。「横がトリミングされた(2:3の原版ではこれが普通)と考えて引き伸ばし倍率を縦を基準に 10.8倍 とすると」に訂正し、以後の数字も訂正しました。そのほか多少訂正しています(訂正前はソース参照のこと)。

(2014/03/23)


(補足 2014/03/24) 参考にあげた「小園子供広場」の写真について水平方向の画角を推定しました。撮影位置は左から2本目のフェンスの支柱(このフェンスの支柱は手前とその2m向こうの1本がほとんど重なって見えています。)と遠方の家の屋根の上に見えるマストの重なり方、鉄棒の支柱の右端と遠景の家の屋根の頂点の重なり具合になるような位置を探しました。それぞれの重なりは直線上にあるはずで、2つの直線の交点がカメラの位置になります。巻尺でフェンスなどの長さ等をはかりました。比較的近距離の被写体を目当てにしているので、誤差を考慮して撮影位置は前後に0.6mの幅で計算しました。結果は66.2度~62.6度でした。35mmフルサイズの一眼レフの35mmレンズの水平の画角は「原版上で」54度です。28mmレンズでは同じく65度です。準備書の写真は縦横の比率が35mm判の 1:1.5 より縦長の 1:1.33 ですから左右がトリミングされた可能性もないとはいえないので、35mmレンズで撮影したとは到底考えられません(縦横の比率が印刷物などとほぼ同じの645判では45mmレンズが35mm判で35.5mm相当だそうです。センサーサイズが44×33mm(1:1.33)ですから水平の画角は約52度です)。


画面をクリックすると拡大画像が表示されます

 上が最近、28mmレンズ(APS-Cサイズ 18mm≒35mm換算28.8mm)で撮影した画像で、下が準備書で使用されている画像です。手前のフェンスや鉄棒の支柱の間隔をほぼ同じにそろえています。背景の家々の大きさや、画面左遠方の電柱の間隔もほとんど同じです。つまり準備書の写真の遠近感は、28mmクラスの広角レンズと同じです。左右の赤い縦線の内側が同じ位置から35mm相当レンズ(1/2.7型CCD、5.4mm)で撮影して写った範囲です(機器の不良で画像が時代遅れのCFカードから読み出せないので範囲のみ示しました)。緑色の矢印の位置の前後の重なりでカメラの位置を決めています(2直線の交点)。

補足 2014/03/25

 喬木村阿島の県道18号線の「現況」写真の比較です。上は準備書から、下は2013年秋に私が28mm相当レンズで撮影したものです。比較のために手前の地面と空の部分をトリミングして並べました。下の写真で家の柱が正しく直立して写っているのは、私のカメラを思わず水平に構えてしまう悪い癖のためです。準備書のカメラはやや上を向いています。その点を除けば遠近感はほとんど同じといえます。写っている範囲と遠近感が等しいなら撮影位置とレンズの画角が同じということです。つまり準備書で示されている県道18号線の景観の現況の写真は28mmクラスのレンズで撮影された画像と同等の遠近感であるということです。35mmレンズでは決して撮影できない画像です。


補足 2014/03/27

この項目については、こちらの新しいページと内容が重複するので削除しました。


(補足 2014/04/03) 「長野県環境影響評価技術指針マニュアル」には次のように書いてあります(抜粋)。

④ 眺望写真の撮影に当たっての留意事項
・写真撮影に当たっては、人が実際にその景観を眺めた時の、視覚的認識にできる限り近いものとするよう留意する必要がある。
・35mmフィルムの場合には、35mmから28mmの広角レンズで撮影すると、撮影範囲が人間の視野(約60度のコーン)に近くなる。ただし、このようにして撮影した写真は、概ね四つ切り程度に引き伸ばした時に実際の視覚的印象に近いものとなる。サービスサイズのプリントや縮小版で準備書に記載する場合は、過小な印象を与える可能性があるため、この点を明記する必要がある。また、必要に応じ部分的に引き伸ばす等の工夫を検討する。(14-9)
・・・
・写真撮影を伴う調査は十分な視程が得られる晴天の日を選び、撮影方向に対して順光、測光(※)になる時間に行う。(14-10)

※ (引用者注)おそらく側光のこと

長野県環境影響評価技術指針マニュアル(平成19年8月 長野県生活部)14 景観(PDF:233KB) より

また、環境庁推薦の『自然環境アセスメント 技術マニュアル』(自然環境アセスメント研究会編 1995年)には次のように書いてあるようです。

フォトモンタージュのアセスメント書への掲載にあたっては、  「写真を用いて現場の景観を出来る限り再現するためには、写真の大きさや見る人間の眼と写真との距離(鑑賞距離)も大きく関与している。実際には35mmレンズで撮影した写真(画角-水平視野54度)では四つ切りサイズ(ほぼA4版)に引き伸ばして約30cm程離して見るのが妥当とされている」(369頁)(フォトモンタージュのトリックを検証する)

JR東海が基づいたという『自然環境アセスメント技術マニュアル』(財団法人自然環境研究センター1996年9月)は、上の引用の文献と発行時期が1年違っていますが、同じものと思われます。「自然環境アセスメント研究会」が編集・著作して「自然環境研究センター」から出版されたようです参考。この説明は鑑賞する距離を30cmとすれば適切といっているので、300 ÷ 35 = 8.57 ですから、引き伸ばし倍率が 8.57倍です。四つ切サイズの縦の長さは 254mmです。これを8.57 で割ると 254 ÷ 8.57=29.6mm です。横については、305 ÷ 8.57 = 35.6mmです。逆に、35mmフィルムで撮影されたとして、305 ÷ 35.5 = 8.59、254 ÷ 23.5 = 10.8 です。つまり、この説明の中に出てくる「35mmレンズ」とは35mm判フィルムを使うカメラに装着する焦点距離が35mmのレンズという意味です。「一定の視点にレンズを置いて撮影してフィルムと同サイズの印画紙に焼き付けた写真(※1)をレンズの焦点距離と同じだけ離して鑑賞するか、同じような条件になるような方法をとって鑑賞した場合には、視点から目で見たときと同じ遠近感が、したがって最も自然な遠近感が得られる」(広角レンズの遠近感描写のメカニズム)。

注意点は:

(1) 35mmとか28mmという数字は画面サイズが 約35mm×約24mm の35mm判フィルムを使用するカメラに装着するレンズの焦点距離のことで、それは画角を問題にしているということです。つまり角度を表すものといってもよい。JR東海が「35mmの広角レンズを使用しました」というのを技術委員会は、「35mmフィルムカメラで35mmの広角レンズを使ったのと同等の画角になるレンズを使用しました」といったと理解しているはずです。

(2) JR東海は、準備書において、準備書に示されているフォトモンタージュは印刷サイズが小さいので構造物が「過小な印象を与える可能性がある」という注意書きをしていないという点です。

(3) 準備書の写真は、必ずしも晴天の日を選んでいないこと。そのために、順光の条件でも逆光に近い画面になっているものもあるということ。(県の指針は「晴天」といっているので雲があってもよいのですが、空の白い雲が画面の印象を大きく変えることがあります。= 2014/04/09 補足)