見えなければ良い

 リニアのトンネルのうち飯田市内の大部分で工事開始前に中心線測量をしないことについてさきに書きました

 東海北陸自動車道の飛騨トンネルは長さ約11kmの長大トンネルです。工事の様子のビデオがYoutubeで見れます(『大地との対話』(文化映画社))。本坑を掘るために先進坑を平行して掘ったそうです。ビデオはその先進坑の掘削の記録です。地質が悪かったり(地質に良い悪いは本来ないはずで、実はそんなところにトンネルを掘ろうとする人間が悪い)、大量の湧水があったりの難工事だったのですが、ビデオでは2ヶ所を特に取り上げています。これらの場所では迂回路や水抜きや調査のために先進坑から枝のようにトンネルを掘っています。



 これでは、あらかじめ地上で測量をして決めた位置、範囲だけで工事を行うということはできないといったほうがよいでしょう。あらかじめ中心線測量をしないといっている理由がこれかもしれません。

 しかし、飛騨トネンルの場合も目的の先進坑は計画どうりに正確に貫通できています。地中でもこれだけ正確なことができるのですから、完成後その位置を地上で確定することはできるはずです。とすれば、JR東海がJR東海とは別の地権者の所有地の地下でトンネルという工作物を所有したいのであれば、区分地上権を設定できるはずです。補償の問題は、また別の問題です。事業説明会のJR東海の説明者は、区分地上権は補償をするために設定するものとも取れるような説明をしていましたが、他人の土地の地下にトンネルという工作物を所有するために設定するものです。

 飯田市の上郷の下黒田、上黒田から妙琴原(松川橋梁)までの地域はほとんどは住宅地、農業、商業地です。将来にわたって土地の利用形態はさまざまなものが予想される地域です。そのような地域で、中心線測量も区分地上権の設定もしないというのです。誰の土地の下を通っているのか確定できないトンネルなのです。つまり幽霊トンネル。


クリックすると拡大。画面右の明かり部と市街地の境目が段丘の境目なので市街地のトンネルもほとんどは地下40mより深い。この区間の土被りはこんなかんじです。

 幽霊トンネルの存在を認める法律的な根拠があるのかないのか。それはわかりませんが、見えなければ何をやっても良いという印象を受けます。地権者と区分地上権の設定について交渉する(用地交渉の)手間が省けるという理由もあるかもしれません。こういうのは合理的とはいわずに手抜きといった方が良いと思います。

 浮上式鉄道の一番の欠点は分岐装置が複雑でコストが高い点です。このことを理由に浮上式鉄道が広く普及することはないという指摘は三十年近く前からありました(リニアの技術について)。また分岐装置の動作が不完全な場合に列車の車体がガイドウェイに衝突する危険性があります(これは鉄の車輪と鉄のレールの場合にはありえないことです)。JR東海のリニアはこの点を解決していません。大量輸送交通機関として既に三十年も前に引導が渡された技術だといえます。しかし、それを無視して先端技術をところどころに採用することで面目を保ってきた。実は死者を冷凍保存して生きているといっているようなものではないかと思います。つまりゾンビ。

 幽霊トンネルを走るゾンビ特急。

 このビデオの最初のほうで次のようなナレーションがあります。

ゆくてをさえぎる険しい山々は、これまで東海地方と北陸地方の交通をさまたげ、中部地方の発展の大きな障壁となってきました。その山並みに閉ざされてきた世界文化遺産白川郷の合掌集落。東海北陸自動車道はこの山岳地帯を貫いて中部地方を縦断する高速道路で名神高層道路の一宮ジャンクションと北陸自動車道の小矢部砺波ジャンクションを結びます。この道路の最後の工事となるのが白川郷の近くに立ちふさがる籾糠山(もみぬかやま)を貫く飛騨トンネルの掘削です。

 白川郷というところは東海北陸自動車道ができる前から有名でした。もし、もっと早い時代に東海北陸自動車道のようなものができていたとしたら、日本国内のほかの地方と同じく合掌集落のようなものは残らなかったかも知れません。世界文化遺産に登録されなかったかも知れません。険しい山々は実は、障壁ではなくて地域をまもる要塞だったのではないかと思います。赤石山脈、伊那山地、木曽山脈も障壁ではなくて要塞の役目を果してきたと考えた方が良いと思います。

(2015/01/08)