更新:2018/01/15

リニアの地域経済への効果

 アリーナ建設の署名運動関連で見つけた内部資料に面白い表がありました。


 一見左右2つのグラフは目盛りが同じに見えるのですが、右は下駄をはかせています。なのに、増加する人数の「2,400」、「2,200」という数字を同じように強調しています。観光目的の交流人口の現状の 36300 という数字はちょっと疑問に思いますが、増加分だけをたすと 4600 です。それに、業務目的の交流人口の現状 1600 をたすと、6200。リニア駅の予想利用客数「6800」に近い数字です。

 ちなみに、1600 という数字は、現状の高速バスの1日の利用者数に近い数字。信南バスの社長さんは、リニア駅の予想利用客数の6800人についてかなり疑問といっていますよ(参考:利用客6,800人は虚妄の数字)。

 観光目的の交流人口の現状の 36300 に対して増加分の 2200 は 6.06パーセントです。一方、業務目的の交流人口の現状の 1600 に対する増加分の 2400 は 150パーセント。

 リニア推進派の学者、市川宏雄さんは、下伊那地域(飯伊)へのリニア効果について、ものづくり産業では物流が良くないので期待できない、せいぜい観光だけといっています(参考:2014年9月、豊丘村での講演)。期待の航空宇宙産業は名古屋地域とのつながりがほとんどですから、リニアよりは車ですから現状と変わらないはず。業務目的の交流人口のうちビジネス目的の増加はそれほど増えるはずはない。増加分の予測は市川さんの予想と全く逆です。

 市川さんの予想を正しいとすると、業務目的の交流人口の内訳は、経済活動(ビジネス)目的ではなく、政治家やお役人の行き来が増えるという話じゃありませんか。だから、議員や首長や役人がリニアに期待を寄せるのは無理ないことだといえますね。新幹線に自分の金で乗ってる人は何人いるんだろうかという話を聞いたことがありますが、リニアも多分そうなる。リニアで中央集中の度合いが高まるという心配はあたっているかも。


 「経済に関わる効果」の説明文に、「都市圏へのアクセス時間短縮によって生まれる様々な効果から推計」と書いてあります。「都市圏へのアクセス時間短縮によって生まれる様々な効果」っていわれて、まず思い浮かぶのは、東京や名古屋へ行くのが便利になるってことだと思います。で、その目的は、まあ都会に金を持って行っておいて来るのが関の山。実は「地方へのアクセス時間短縮によって生まれる様々な効果から推計」すると東京が下伊那や飯田から新たに吸い上げることができるお金が年間46億円という冗談のような話ではないのかと思うのです。リニアでもストロー効果が生じるという声も多い。

 ちょっと、脱線すると、2017年5月の「リニア駅周辺整備に関する市民説明会」で、リニア推進の立場で会場から発言した一般市民がいました。東京へ速くいければ、コンサートや展覧会を見るのに便利だとそのことだけを言っていました(「リニア駅周辺整備に関する市民説明会」と「リニア駅VR体験会」)。ちなみに、アリーナをつくってねという意見が出されたのは、2017年1月の「リニア駅周辺整備に関する市民説明会」の席上、短大生が発言しています。初めてかどうかは別として。スポーツだけでなくコンサートなどのイベントにも使えるアリーナが欲しいと言っていました。一方で飯田市はルート本線、駅周辺整備で移転になる人への対応はほとんど進んでいないし、路線そばに残って被害を受ける人たちの声には「お宅は立ち退きでなくてよかったですね」などとマヌケなことを言うような対応もしている。推進側は浮ついていて無責任すぎはしないか。リニア推進と誘致の運動は、実は、空襲を受けることが分かっていて日米開戦を決定したのと同じに思えるのです。そのへんが戦前と同じです。

 で、アリーナの建設は結局、20万分の2万5千のスポーツ関係者、愛好家、ファンが喜ぶ以外は、建設業者さんが潤うという話。しかし、地元の業者さんが受注できるのかが問題。地元自治体の負担はどうなるのか、地元自治体の負担が少ないとしても、建設費は結局は税金から出費されるわけですから、「経済に関わる効果」といわれてもね。

 「必要なもの」なのか、「欲しいもの」なのかは、無駄遣いをなくすのに考えるべき基本です。もちろんそれは、今の日本社会にとってのリニアについても言えます。

 アリーナ建設要請の署名活動は、信頼性の低い情報をよりどころに呼びかけが行われたのではないかと思います。

 さて、表の説明文を見てちょっと変だと感じた方はいませんか? 数字の妥当性とか、そういう問題ではなくて。なんでフリガナがふってあるのでしょうか? 「関わる」とか「換算」とか「推計」とか「試算」とかが読めないかも知れない人たちを対象としている。読めなければ、おそらく意味も理解できない。多分小学生向けの副読本からコピーしたものではないか。ひょっとすると、署名の推進を先に立って進めている人、この内部資料をつくった人自身が「リニアの効果」についてきちんと理解できていないのではないか。とすれば、東京五輪と同じで財政的に無責任な話になっていってしまうのではと心配です。