更新:2021/03/15、2021/03/17 一部加筆
飯田市議会3月定例会の一般質問から
3月10日、飯田市議会の一般質問で共産党の後藤壮一市議がリニア新幹線に関連した質問をしました。関連部分の要約筆記(かなりタイプミスがあります。ご勘弁を。)
後藤市議の質疑の動画 ⇒ 「令和3年(2021年)3月10日 飯田市議会第1回定例会 一般質問 共産党 後藤荘一議員」
リニアは技術として「なっていない」
はじめに、リニアは凍結すべき理由として、後藤市議は、高校生時代に自らのリニアモーターカーの模型を試作した体験から、リニアモーターカーが10㎝浮上することから、モーターとして効率が悪く、電力を過大に消費し環境に悪影響があると指摘しました。つまり、そもそも交通機関として技術的に問題があって、エネルギー消費を減らそうとする時代の流れに逆行するものだという指摘だと思います。こういう指摘をした議員さんは市町村議会レベルだけでなく、県議会、国会でもほとんどいなかったと思います。
補足説明をすると:JR東海の超電導リニアは、「磁気バネ」により車体が支えられています。「バネ」ですから遠心力など車体に加わる力と「バネ」の反発力が釣り合う位置まで車体がずれます。ずれを見込んで車体とガイドウェイの間隔を決めると10㎝ほどになった。回転式のモーターでは、電気を流すコイル(界磁コイル)と回転する部分(回転子)の隙間は1㎜以下。しっかりしたケースに界磁コイルと回転子が取り付けてあるからです。リニアでは、推進するための電力はガイドウェイのコイルに流しますから、超電導磁石との隙間は10㎝以上にもなります。磁石の作用は距離の二乗に反比例するので超電導磁石がどれほど強力なものであっても効率が低くなるはずです。時速300㎞/h走行時の新幹線の電力消費は28(Wh/座席・1㎞)ですが、リニアは54(Wh/座席・1㎞)とかなり分が悪い。
開業できたとしても、そんなものが長続きするはずはないし、開業までに実用技術として完成できるかどうかも分からない、そんなものに地域の未来を託して良いとは思えません。
コロナ後、新幹線利用者は減るのか減らないのか
後藤市議は「コロナ以降の利用客数はビジネス、観光、私用等が当初の想定より減少する」と指摘。とすれば、駅周辺整備で計画される複数の広場についても、利用者数との関連で活用方法が変わるはずと、想定について聞いています。
細田リニア推進部長の回答は、コロナの影響で新幹線の乗降客数が減少しているし、人の移動が少なくなり、リモートワークやテレワークが普及してきている現状があることも事実だと認識しているが:
その一方で、コロナにおいては社会的価値観が変容してくるといわれており、むしろ顔と顔を突き合わせた関係、フェースツーフェースコミュニケーションという言葉があるが、そういったことの重要性が再認識されたという意見があることもご承知おきかと思う。 そういった意義を考えると、現地に足を運んで実体験として、あるいは感覚として、しっかり受け止める、あるいは、顔と顔を突合せ対面で議論し合い理解をし合うことの大切さが浮き彫りになって来る機会にもなり得るのではなかろうかと考える。このようにかんがえるとリニア新幹線の意義が高まることにもつながるのではないか、そういった可能性も十分にあるのではないかと考えている。コロナの収束を見通せる状況にはないが、現時点ではリニアの予想乗降客数を変更する状況にはないと考えている。
細田部長がいっている 「そういったことの重要性が再認識されたという意見」はどの程度の割合の人たちの意見なのかという点でデータに基づいていない。それからもう一つ。後藤市議の指摘は、今までは、実は対面でなくとも済ますことができることまで新幹線を使って出張していたことがずいぶんあったけれど、そういうことはしなくても良いことがわかったという意味内容であることは、報道等で十分に周知されている論点。そして、多くの鉄道事業者も当面のコロナ下の乗客数の減少に危機感を抱いていること。そしてコロナが早々に解決できる見込みはないという現実を全く無視しています。
JR東海の金子社長は、2月25日の会見で「本格的にワクチンが浸透するか、確たる治療法ができるまでは(感染に)気を付けながら生活する局面が続く。なるべく早く感染防止がうまくいき、利用が増加してくることを期待する」(『中日』2月26日 "緊急宣言解除で「ぶり返し」警戒 JR東海・金子社長")。3月上旬の東海道新幹線の利用者数は去年にくらべ26%減少。2019年と比べると70%の減少。3月10日に金子社長は「コロナの感染状況に大きく左右されていて、利用状況の回復のペースはつかみがたい。ワクチンの接種がすすみ、治療法などが確かなものになれば、次第に移動の制約なども解消されてくると思う」(『東海 NEWS WEB(NHK)』10日 "東海道新幹線宣言解除も利用減少")と2月と同じような事をいっています。
後藤市議は質問の答えになっていないと指摘。
利用客6800人は虚妄の数字
期待は抽象的、被害は具体的
細田部長は再答弁の中で、「6800人」という数字は長野県が出した数字を引用したといっています。
6800人の数値についてあらためて説明する。これについては長野県の新総合交通状況…(不明瞭な発話で聞き取れず)のなかで、リニア中央新幹線の長野県駅を利用する乗降客数と言うことで想定されている数字を引用している形になります。具体的には飯田市のほうとJR東海のほうでも独特、個別に試算して、飯田市では6900人、あるいはJR東海のほうでは7000人という数字があるなかで、6800人という数字は非常に近似しているということのなかで選ばせていただいた。
飯田市は「一般財団法人・計量計画研究所」にリニア駅周辺整備の規模の検討を委託しました。その報告書「平成24年 官民連携推進支援調査事業 リニア中央新幹線飯田駅(仮称)施設規模の検討業務」の中では「6955」になっています。つまり、約7000。長野県が出した数字が6800、JR東海が7000であるなら、飯田市の想定「6955」をとれば、その平均は 6918 。なぜ、一番少ない長野県の想定を使ったのかという疑問が残るではないですか。飯田市の想定方法は「あやしい」ので長野県の数字を「引用」したんですか。また、利用客数については、「交通モデルを用いた」分析によれば 3418 という数字もあります。
後藤市議が指摘する広場なのですが、よくよく考えてみると、飯田市が考えている駅周辺整備とは、駅周辺に「空き地」をつくるという計画ではないかと思います。所詮、空き地なんですから、そもそも、利用客の想定だって正確なものは必要ない。しかし、現在、多くの住民が日々生活をおくっている場所からどいてもらって空き地をつくるでは、住民は気持ちよく移転することなどできるはずはない。現在の生活の場を潰すということは住民にとってまさに具体的なことです。線路と駅だけ造らせてあとはほっておく程度でいいんだという意見さえある。リニアの田舎の中間駅は駅を造らないと沿線自治体の協力が得られないから、それしか設置理由はないはず。
3月3日に下伊那北部5町村主催「リニア時代を見据えた北部5町村の地域づくり」というイベントがあり、青森大学教授の櫛引素夫さんが、「リニア中央新幹線と地域経営~7年後への視点と工程表~」というテーマの基調講演のなかで、「期待は抽象的、被害は具体的」と言っていました。「6800」という数字がどれほど抽象的で曖昧、テキトーなものかということが、細田部長の答弁でよくわかりました。
関連ページ:利用客6,800人は虚妄の数字
参考動画:飯田市HP公開動画 > リニア駅イメージ映像
駅周辺整備基本計画をコンピュータグラフィック動画で表現したもの。7本のこれらの動画を見ると駅周辺は、立体駐車場以外は、基本的に平坦で「整備された空き地」という印象です。「02 2 北側エントランス~フットパス~都市計画道路リニア駅前線」 の2分15秒付近で画面中央を右から左へ横切る鳥なんですが、「カモメ」のように見えるんですが、どう思われますか?。
市内の残土置き場の問題
後藤市議は、龍江地区の残土置場について反対の声があがっていることについて認識があるかと質問しています。細田部長の説明:
建設発生土、議員の方では残土とおっしゃっていますが、その関係についてのご質問です(※)。JR東海におきましては、すでに議会でもご説明申し上げていますが、飯田市内におきましては下久堅地区ならびに龍江地区の2か所で発生土置き場の候補地として検討を進めている。
下久堅地区については、昨年末に地権者そして下流域も含めた関係者を対象に工事説明会を開催した。
龍江地区については、発生土置き場としての可能性の検討に必要となる調査の実施について地元と調整をしている。
なお、龍江地域においては、昨年、地元の有志の方々により「龍江の盛土を考える会」が発足され、これまで数回に渡りまして講師を招き勉強会を開催されたり、そうした勉強会を続けられていく考えであると聞いている。危険なので反対といった声があがっていることについて、どういった認識かという問いだが、そのなかでいろいろな議論が出ていると承知しているが、勉強会の意見として承知しているところである
※ 『信毎』も『中日』も『南信州』も「残土」と書いている今、細田部長さんはJR東海の社員ですか?
後藤市議は「盛土を考える会の皆さんの中で、危険なので反対という声が今一致してきているというふうに認識している。是非その声を尊重すべきと思うがどうか?」と質問。
細田部長の答弁:
下久堅地区と龍江地区も合わせて、発生土置き場の候補地に関しては、地元地域と相談する中で候補地を提案いただき、そしてその候補地を市から県を通じてJR東海に情報提供をさせていただいた。それを踏まえJR東海が活用先として適当かどうか検討し、そのうえで地元と協議を進めている状況である。地元においては、そういうことを踏まえると、建設発生土を上手く活用して地域振興を進めることができないかという観点で検討してきていると認識している。龍江地区においても、まちづくり委員会を中心にこうした観点からの検討が進められてきたと認識している。そういうふうに考えると、市としてはまずは地元でしっかり時間をかけて多様な観点から話し合うことがまずは重要と考える。そのうえで地域としての考えをまとめていただくことになろうかと思うが、助言等、お手伝いができることがあれば市としては積極的に対応して行きたいと考えている。
細田部長は候補地選定過程で一番重要な最初の部分をはしょっています。それは、長野県は関係自治体に候補地の照会をするときに、場所さえわかれば、地元や地権者との事前の協議は必要ない、担当者が思いついた場所で良いと言っていることです。
…あくまでも想定の範囲での回答で構いません。また、回答によって自治体に責任が生じることもありません…
(1)この照会は、あくまでも搬出先(方面)や土量のおおまかな傾向を把握することが目的であり回答していただく内容は担当者による確定で構いません。
(2)あくまでも自治体内部での検討にととめていただき、外部へ照会や調整は必要ありません。
(3)今回の回答に基づいて 発生土の受け入れをお願いすることはありません. JR東海から発生上に関する詳細な情報が提供された後、改めて具体的な調査を行う予定です.(リニア中央新幹線に係る建設発生上の活用先について (照会) (第1回目) 2013年5月28日)
「(2)あくまでも自治体内部での」と言っています。つまり、地方自治法に規定されていない住民自治組織は「自治体内部」には含まれないはず。そのあたりが、あいまいなんですが、これが問題。
南木曽町や大鹿村はこの照会にたいして、候補地はないと返答したはずです。たぶんそれは、役場の庁舎の中で判断したことであって、残土を置くことの危険性を認識していたからか、住民の理解を得られないと判断したからと思います。飯田市を含め他の関係自治体も、住民の安全を考えるなら、そういう判断をすべきだったのに、リニアの効果に目がくらんで、しなかったというだけのことです。
だから、松川町でも、豊丘村でも、飯田市でも今になって住民が心配しているわけです。
飯田市についていえば、住民の安全についての責任を地域の住民になすりつけたと言えるのではないか。まちづくり委員会とはいっても、飯田市の場合は、一つには以前からある自然発生的な住民の自治組織ではなくて飯田市が上から組織し直した市役所の下請け機関であること。もう一つは、自然発生的な自治組織からの提案としても、多くの場合、利益のある少数の住民の意見であること。細田部長がいっている「建設発生土を上手く活用して地域振興を進めることができないかという観点」とは、そもそも地域の住民の意見を代表しているわけではないはず。
だから、そういう心配の声がでた時点で飯田市がなすべきことは、候補地の情報提供のリストから龍江地区をはずすことだったと思います。松川町も実は同じようなもので、宮下町長がこれからは町として生田の中山の置き場(30万立米)が実現できるよう考えるというのはほんとーに○○みたいな話です。
結論はもう決まっていて、話し合いがさも行われたかのような形式を整えたということじゃないかと思いますね。これは、どうしたって、ひっくり返さなくてはならないと思います。
細田部長は、前牧野市長みたいに、「モビリティの進化」など、けっこうヨコ文字を使って説明しています。一方、参照資料について明瞭にしゃべっていない。細田さん個人の資質とは別に、「リニア推進部」という組織の立場が、市民を煙に巻くような発言をさせるのではないか。先に引いた櫛引教授は、「開業は遠いほど輝いて見え、近づくほど手強くなる」とも言っています。もういまや「リニア対策部」に改めるべきじゃないかと思います。
関連ページ:トンネル残土関係資料(長野県分)