更新:2022/05/12
大深度法って必要なのか?
地表に影響のあったトンネル工事
すべてではないですが、地表に影響のあったトンネル工事をリストしてみました。掘削の方法や地質に関係なく起きているようです。深さが100mより深いところで掘削した工事でも陥没が起きた例があります。
大深度法(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)が成立したのが2000年5月19日。地表への影響の可能性があるのに、地下40m以下であれば事前に土地所有者の許可を得ず掘削できるという内容は、たいへん乱暴なものだといえます。
○東北新幹線・第1上野トンネル(1990年1月22日、東京都、御徒町駅付近の都道453号線が陥没、地下14m、シールド工法)
○北陸新幹線の高丘トンネル(工期=2001年3月から2007年3月、中野市、NATM、深さ10~30m、地盤沈下で182棟に被害) ⇒ 事業者の運輸機構は事前に影響はないと住民に説明。事故後は、トンネル工事が建物に影響を与えるのは普通のことと新聞取材に説明(『産経』2017年6月1日 "北陸新幹線のトンネル工事で周辺住宅180棟超にゆがみや傾き")。
○国道142号線バイパス・湖北トンネル(1992年2月14日、下諏訪町、NATM、深さ80m、陥没)
○上信越自動車道・日暮山トンネル(1999年12月9日、群馬県甘楽郡下仁田町、NATM、深さ130m、陥没)
○北陸新幹線・飯山トンネル(2003年9月11日、飯山市、NATM、深さ190m、陥没。 ⇒ 鉄建公団は負傷者なしと公表したが実際には坑内で重軽傷3名。
○福岡市地下鉄七隈線(2016年11月8日、福岡市博多駅前、NATM、深さ約25m、陥没)
○小渋線東山トンネル(2017年12月15日、中川村、NATM、山の斜面が崩落)
○北陸新幹線・柿原トンネル(2017年9月8日、福井県あわら市、NATM、深さ約十数m、陥没)
○リニア中央アルプストンネル斜坑(2019年4月8日、中津川市、NATM、深さ度約20m、陥没)
○相鉄東急直通線・新横浜トンネル(横浜市、2020年6月2・30日、シールド工法、深さ18~19m、陥没)
○東京外かく環状道路(外環道)のトンネル工事(東京都調布市、2020年10月18日、シールド工法、深さ47m、陥没、地盤沈下。事故後、事業者「東日本高速道路」は、約40戸(地盤の補修範囲は南北360m、幅16m)の家屋の解体・仮移転を要請)。国交大臣から大深度法の適用を認可を受け、事前に土地所有者の承諾を得ずに開始。2017年12月「東京外環道大深度地下使用認可無効確認等請求事件」提訴、2021年5月シールドマシンを使ったトンネル工事の中止を求める仮処分の申し立て、2022年2月28日東京地裁は一部区間の気泡剤を用いたシールド工事の差し止めを決定。残土の産廃としての処理が必要なベントナイトでなく気泡剤を用いた目的は、残土の産廃処理の経費の軽減。4月12日外環道の大泉JC付近の工事現場でシールド機が工事のための地中の隔壁に衝突し損傷。地表から掘り下げ修理に約半年かかる見込み。2021年7月リニアの都内の大深度トンネル工事の差し止め訴訟が提訴。
○広島高速1号線・福木トンネルで地表面沈下(2001~2006年)。この事故に関連して、2000年度に事業着手された広島高速5号線の双葉山トンネル(広島市東区、全長1.8㎞)の工事着手が一時見合わせになる(2008年)。2009年9月~2012年8月トンネル安全検討委員会が検討、異論があったが工事は安全にできると報告。2018年9月シールド工法で掘削開始したが、2018年12月~2019年5月シールド機損傷で掘削中断。2021年10月以後3回掘削中断(2022年2月時点)。シールド工法では完璧な事前の調査が必要。
○北海道新幹線・羊蹄トンネル(全長9750m) 2022年4月13日運輸機構が陥没を確認(土被り21m)(参考)
○北海道新幹線・渡島トンネル(全長32.675km) 2022年5月10日運輸機構が陥没を確認(土被り約50m)(参考)
大深度法の問題点は
国交省の大深度法のパンフレットのページの「新たな都市づくり空間 大深度地下(PDF)」には「通常利用されない空間が大深度地下です」として:
大深度理科は、次の①または②のいずれか深い方の深さの地下です。
①地下室の建設のための利用が通常行われない深さ(地下40m以深)
②建築物の基礎の設置のための利用が通常行われない深さ(支持地盤上面から10m以深)
また、「円滑な事業の遂行を図ります 権利調整がスムーズになります」として:
大深度地下は通常利用されない空間なので、公共の利益となる事業のために使用権を設定しても、通常は、補償すべき損失が発生しません。このため、今回施行された法律では事前に補償を行うことなく大深度地下に使用権を設定ができることとし、例外的に補償の必要性があれば、使用権設定後に、補償が必要と考える土地所有者等からの請求を待って補償を行います。
大深度については、国交大臣の認可をうけると土地の所有者に無断で工事ができるとされます。
上の引用の中の「例外的に補償の必要があれば」というのは、地盤が緩む、陥没するなどの事故が起きた時の土地所有者や建物の所有者にたいする補償ではないです。以上のリストで見るようにトンネル工事で地表に影響が出る可能性はあるのですから事故の可能性を無視している大深度法には大きな問題があります。大深度法の問題点については自治体問題研究所の「論文】大深度法―その経緯と問題点」をみてください。
しかし、そもそも、大深度法は不要のはず
しかし、そもそも、大深度法の適用できる三大都市圏の一部地域をのぞく地域においては、30m以深であれば、用地交渉をせずに工事をしてしまう慣例が続いています。誰も文句はいっていません。これは、おそらく明治時代から続いているのだろうと思います。長野県飯田市内の住宅地の地下約70mを掘削するリニア新幹線の風越山トンネルも30m以深の部分の土地所有者に直接許可を得ることはしないとJR東海は説明しています。地域の自治会の役員会への説明ですまそうとしているようです(5月12日現在)。市民を守るべき立場の飯田市もJR東海に対して何も文句はいっていません。そもそも大深度法を制定する意味などは実質的にはないといえまんせんか?
大深度法の「通常利用されない空間が大深度地下」という触れ込みが、地方では、現在では違法といえる明治以来の慣例を正当なものと誤解させる部分があると思います。
鉄道事業者の建設する鉄道や公共事業の用地については土地収用法の適用ができるので、そういう点でも大深度法は必要なかったはずです。だいたい、トンネル工事の場合は、所有者が許可しない場合でも黙って掘るだけのことなんですが、所有者が物理的に抵抗することはまずできないでしょう…