更新:2023/10/03
生き残るのは鉄道
下の図は、2つの磁気浮上式鉄道と鉄輪式の鉄道の「生き残り」についてトーナメント図で書いたものです。
①については、勝敗の結果は、以下の事実から常電導の勝ちとしました。
- 1970年代に、ドイツでシーメンス社などが超電導方式の研究開発をはじめテストコースでの走行試験もして、「経済的・技術的デメリット」を理由に開発を止めた(*1)。ドイツは常電導のトランスラピッドを実用化し、2004年上海で開業。
- 日本航空は、超電導を選ばないで、常電導を採用して開発を開始(*2)。後、名古屋のリニモとして2005年開業。似たような方式で、仁川、北京、長沙で営業運転が行われている。
- 1980年代にラスベガスとロサンゼルスの間に高速交通機関の構想があって、日本の国鉄の超電導方式ではなくドイツの常電導のトランスラピッド方式が研究に値するという結論になった(*3)。
- もともとアメリカのアイデアの超電導方式は、アメリカでは結局開発されなかった(*4)。
②については、勝敗の結果は、以下の事実から鉄道の勝ちとしました。
- ドイツが開発したトランスラピッドを上海に導入(2004年正式開業)した中国ですが、2007年以降に急速に建設した約4万2千km(*5)の高速鉄道網は従来の鉄輪方式を採用。
- 磁気浮上式手鉄道は鉄道に比べまさっているのはスピードのみで、たとえば電力消費では新幹線に比べればかなり大きくなる(*6)など他に利点はなく、特に分岐装置の複雑さからネットワーク性で鉄輪式くらべ非常に劣る(*7)。
磁気浮上式の場合、ガイドウェイ全体を動かさなければならないけれど、鉄道では車輪のフランジさえ通過できれば良いのでポイントの構造が簡単になる。 - アメリカ東部のリニア計画が環境影響評価段階で頓挫しかけている理由の一つに、従来の鉄輪方式の高速鉄道の整備(改良)が先決という考えが強いことがある(*8)。
- 今の社会が鉄道に求めるものは、高速よりは、環境特性(*9)。
既存の鉄道と直通運転することもできず、世界中に広く普及する可能性がほとんどない方式の超電導リニアをいきなり「幹線」で採用するというJR東海の考えかたは、東海道新幹線のバイパスにするという考えも含めて、まともとはいえないですね。
- *1 大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』(公共投資ジャーナル社、1989年)、37ページ。(参考)
- *2 中村信二著「HSSTの開発について」(参考)。
- *3 ジェラルド・K・オニール著、牧野昇訳『六つの超大技術市場―テクノロジー・エッジ』(新潮社、1985年、原著は1983年刊)。(参考:"超電導リニア、側壁浮上方式の安全性は? ~北山敏和さんのHP~"、"リニアを見据えては砂上の空論 絶対に無視できない超電導リニアの問題点 日本のリニアははるかに優秀 石原運輸大臣"、"10㎝浮上と1㎝浮上の違い")
- *4 「北山敏和の鉄道いまむかし」の「アメリカのリニア(AIR TRAINS)」と「アメリカの高速鉄道(High-Speed Rail: Another Golden Age?)」
- *5 「中国の高速鉄道は22年12月末で約4万2000キロメートルあり、日本の新幹線(約3300キロメートル)の約13倍」(『日経』2023年1月29日 "中国高速鉄道、見えぬ収益改善 延伸でも旅客需要鈍く")。"(CHINA8旅やす) 外国人が上海リニアモーターカーの切符を買えない?上海リニアを実際に体験乗車しました"。
- 時速300㎞で走行する場合、1人の乗客を1㎞運ぶのに必要な電力は、「エネルギー問題としてのリニア新幹線」(『科学』2013年11月、1293ページ)によれば、超電導リニアが54wh、新幹線が28wh、トランスラピッド・インターナショナル社のHPによればトランスラピッドが34wh。
- *7 「(磁気浮上式鉄道では)数組の車両を、あるいは数本の線路を用いて運転するということになると、たちまち車両をある線路から他の線路に移すという問題が生じるのである。このために必要な分岐装置がきわめて複雑で高価であることを思えば、磁気浮上方式が高速鉄道に取って変ることが決してないだろうということを理解する一助となろう。」(マレー・ヒューズ著/菅健彦訳『レール300 世界の高速列車大競争』山海堂、1991年[原著は1987年]、100~101ページ)
- *8 ボルチモア市は環境影響評価草稿への意見で「リニアは現在進行中の既存の鉄道インフラ整備の方向に沿うものでない」と、コロンビア特別区の議会議長であるアーリントン・ディクソン氏は「既存の鉄道インフラに投資することが最善の選択肢」と述べている(アメリカのリニア計画はどうなっているか?)。
- *9 アルストム社CEOの発言、「もはや最高速度などは誰も口にしない。どれほどクリーンな電車を出せるかが重要だ」(『日経』2018年9月22日 "鉄道車両も環境シフト 独シーメンスや仏アルストム 蓄電池駆動や水素燃料")。