更新:2024/07/12、2024/07/13 改訂

土曽川橋りょう工事への要対策土活用の中止を要請

 JR東海は、長野県のリニア中間駅の工事で基準値を超えるヒ素などを含む要対策土を活用する計画です。高架部分を支える橋脚の基礎の中に要対策土を詰めます。基礎のコンクリートの厚さが1.5mあり汚染が広がる心配がないからとJR東海は説明しています。

⇒ 詳しい説明はこちらをお読み下さい。

 2022年2月28日の説明会でJR東海ははじめて要対策土を活用すると説明しました。「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」は、これ受けて、3月25日に飯田市に要対策土を受け入れないように要望書を提出しました。飯田市の対応は、説明会で住民側から大きな反対の声はなかったというものでした。

「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」が飯田市に要望書

 「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」は、大きな反対の声はないと主張する飯田市に対して、再度、計画の中止を求めるため、4月から署名活動をおこない、地元である飯田市上郷飯沼をはじめとして、紙の署名1523筆、オンライン署名4914筆が集まりました。

 署名をいただいた皆様に感謝します。また協力をいただいた諸団体にも感謝します。ありがとうございました。

 7月10日に、JR東海の長野工事事務所に署名と要請書を届け、その後、飯田市役所に署名と要請書を提出し、市役所内でリニア推進部長ほかと懇談しました。

 リニア推進部長は、市としては、公共事業に使われていることもあり、要対策土の基礎工事での使用は否定するものではないとしました。住民の会は、有害物が漏れ出た場合の対策や責任や補償についてJR東海と協定を結ぶべきとしつつも、まずは第一に持ち込ませないことが肝心としました。

ケーソン基礎工法の必要性は?

 ケーソン基礎を採用する必要性についてJR東海から説明を受けているのかとの質問に、飯田市は、用地の問題からと聞いているが、必要性については聞いていないと答えました。

 なお、天龍村の天竜川橋の架け替え工事が難航して8年間工事が中断していましたが、これまでの土留めして掘削する工事方法を、ニューマチックケーソン工法に変えるというニュースが7月8日に報道されました。天竜川橋では費用は約2倍弱増加するそうです。河川敷内の工事ですが天竜川橋の規模の工事で採用するのは珍しいようです。

⇒ 「7億5千万円で従来の施工方法より3億5千万円ほど膨らむ。リニア中央新幹線の天竜川橋りょう(飯田市-喬木村)=全長515メートル、幅16メートル=でも使われるが、天竜川橋は半分以下の規模。県下伊那南部建設事務所によると『この規模で採用するのは珍しい』」(『中日』7月8日8面)

ケーソン工事についてのJR東海の説明の変化

 土曽川橋りょうの工事についての説明が行われた説明会と、環境保全計画の公表時期とその内容を審議した長野県環境影響評価技術委員会の開催時期を一覧にしてみました。(7)は、ケーソン工法が1カ所で行われる「阿島北高架橋工事ほか」(伊那山地トンネル西側坑口から壬生沢川をこし阿島北地区の中心部までの工区)の説明会です。

 ケーソン基礎の工事についての説明が、この間、変化しています。

ケーソン工法でも残土が発生 ⇒ 発生した残土はケーソンの中詰めに使える

 ケーソン工法はまず地中に沈めていく構造物を造ります。その後、構造物の下に作業員が入り掘削しながら構造物を地中に沈めていきます。つまり、ケーソン工事そのものから残土が発生します。

(1) ケーソン基礎の掘削残土に言及なし

 JR東海が、最初に土曽川橋梁の工事にふれたのは、2022年9月の3回の説明会でした。配布資料(スライド)を見る限りでは、基礎の中に空間のある図柄が示しているのですが、ここに土砂を詰めるとか、工事ででた残土をどう始末するのかということは書いていません。

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9月7・8・27日:資料1 長野県駅・風越山トンネル(上郷工区)工事説明会資料より

(2) ケーソン基礎の掘削残土をケーソン内に詰める

 2022年10月12日公表の環境保全計画のなかでは、ケーソンの工事で発生する残土は「ケーソン基礎内の中詰め土に活用する」と説明しています。

 ケーソン基礎を沈める部分にもとからあった土砂とケーソン基礎を入れ替えるんですから、中詰め土(材)として必要な量はほとんど現場で間に合うはず。わざわざ30㎞以上離れた場所から多量の燃料を消費して運ぶ必要はない。まさか…

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(3) ケーソン基礎の掘削残土をケーソン内に詰める

 2022年10月21日の長野県環境影響評価技術委員会はJR東海のこの((2)の)保全計画書を元に審議が行われました。当日のスライド資料(次の図)でも「掘削による発生土は、ケーソン基礎内の中詰め土に活用します」といっています。

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(「資料1 中央新幹線長野県駅(仮称)新設工事における環境保全について」より)

 会議録を読むと、掘削残土をケーソン内に詰め込むという説明をJR東海は口頭ではおこなっていないようです。工事排水については処理後に土曽川に流すと説明していて、その関連で委員から質問は出ていますが、要対策土を活用するということを説明していないのです。この技術委員会の席上で要対策土を中詰め材として活用すると説明していたら、おそらく審議の内容はかなり異なったものになったはずです。

(4) ケーソン基礎の掘削残土をケーソン内に詰める

 2022年11月24日の座光寺・共和地区の説明会。橋脚P1は共和地区になります。配布資料(5ページ)によれば、この説明会でも、ケーソン工事の「掘削による発生土は、ケーソン基礎内の中詰め土に活用します」と説明したようです。

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(5) ケーソン基礎の掘削残土に言及なし、「中詰め土」⇒ 「中詰め材」

 2024年1月16日の座光寺地区全体対象の説明会の配布資料では次の図のように説明されていました。「中詰め土」ではなく「中詰材」になっていること、ケーソン工事ででた残土を中詰めにするという説明がなくなっています。

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(6) 『対策土』を中詰材に

 2024年2月28日の上郷公民館の説明会で、JR東海ははじめて要対策土を「中詰め材」として活用すると説明しました。スライドでは「トンネル発生土」になっています。やや回りくどい説明で、ようは「要対策土」を活用すると説明しています。

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(資料1 リニア中央新幹線事業に関する説明会 (PDFファイル/47.99MB)より)

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(上に同じ)スライドの中に『対策土』と書いてあります。一般化している『要対策土』というコトバと『対策土』の違いは何なんでしょうか?

 このあと、ヒジキにはヒ素が含まれているが食べても大丈夫ですよねとか、基準値のヒ素が含まれる水を毎日2リットル70年間飲んでも大丈夫といった、「自然由来」だから大丈夫という印象操作をやってます。活用例も示されていますが、なぜだか、飯田下伊那で出た要対策土をどう始末したかといった話が出てきません。その方が説得力があるのに。そういうものの処分は近隣では前例がなかったのかもしれません。宮田村では、民間業者の放射性廃棄物処分場計画を、住民運動の結果、用地を村が取得することで決着したという話はありました。

 JR東海の考え方は、じつは、「中詰材として、『(要)対策土』を厚いコンクリートで封じ込める方法で活用したい」ではなくて、「ケーソン基礎を『要対策土』の処分場所として活用したい」が本音でしょう。

地区が変われば、小出しの説明を繰り返す

(7) 振り出しに戻ったけれど、同じ手が通用するだろうか

 2024年6月24・29・30日の喬木村と豊丘村の阿島北高架橋工事ほか説明会。この工事区間では19基の橋脚を建設しますが、1基がケーソン基礎です。喬木村福祉センターの説明会では、ケーソン工事そのものによる残土についても、中詰め材についても説明はありませんでした。

 つまり飯田市上郷の2022年9月の説明と同じところに戻っている。

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(配布資料より)

住民や環境影響評価技術委員会を愚弄している

 6月29日の豊丘村伴野地区で行われた説明会では、上郷の説明会は2月末だったので、飯田の土曽川で要対策土をケーソン基礎に活用するという話は、報道(*)もされていたんですから当然ですが、多くの住民は知っていたことです。住民からケーソン基礎の中詰め材に要対策土をつかうのではないのかとの質問(**)がでて、JR東海は「今のところは考えていない」と回答したそうです。

* 3月1日各紙記事:『信毎』19面 "トンネル工事で排出 基準超の自然由来重金属含有 「要対策土」飯田の工事に JR東海 事業説明会で方針表明 地元に不安 情報公開と説明必要"、『南信州』1面 "JR東海 「要対策土」橋りょうに活用 駅工区の上郷で住民説明会"、『中日』15面 "要対策土 土曽川橋りょうに 搬出先 基礎工事で活用とJR説明"

** 6月4日の大鹿村であった工事遅れについての説明会でも、小渋川橋りょうの工事に要対策土を使うのではないかという質問が住民からでました。

愚弄するから熱くなる

 この「阿島北高架橋ほか新設」についても環境保全計画が出され、長野県環境影響評価技術委員会で審議されるはずです。こんどの技術委員会が2022年の第5回と同じように「平穏」に終わるのかどうか?

 2022年9月の最初の説明から、要対策土を活用したいと説明したら、住民の対応はもっと違っていたかもしれません。県の技術委員会の議論や県知事の助言も。住民から反発の出そうな部分の説明は、一番最後までとっておくという説明になっているといえます。

 これでは、認可にあたって、住民に丁寧に説明して理解を得てから工事を行うようにという国交大臣の要請に反することになります。

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