更新:2019/06/17、2019/06/23 補足
無理に無理を重ねる超電導リニア
2月8日、ストップ・リニア!訴訟の第14回口頭弁論のあと、衆議院第二議員会館で行われた武蔵野大学工学部教授の阿部修治さんが、"「リニア新幹線」:限界技術のリスク" と題する講演を行い、超電導リニアの技術的な評価について話されました。講演の概要とレジメは以下のリンク先にあります。是非ともお読みください。
阿部さんは、失敗する技術は、センスが悪いところがあって、それでも頑張り続けて、単独で無理をしてだんだん凝り固まって硬直していって最後は衰退していくと、指摘しています。超電導リニアはいろいろな点で無理に無理を重ねているといったお話でした。また、同じ目的で開発された常電導方式のトランスラピッド(上海リニア)は超電導に比べシンプルな技術だったにもかかわらずやはりコストの点で鉄道との競争に負けたとも。
トランスラピッド(上海リニア)(ウィキペディアより) 2001年工事着工、2002年開通、2004年1月営業開始。2003年11月20日、時速501㎞で走行。
画面クリックで拡大。左=トランスラピッドの実験線。右=超電導リニアの実験線。
まえから、私は、曲線部の多いトランスラピッドの実験線や上海の路線に比べ、超電導リニアの宮崎実験線も山梨実験線も、ほとんど直線ばかりで、曲線を高速で走った実績がない、曲線を走るのが苦手なのではといってきました。また、ガイドウェイの建設の単位になる、側壁のコイルを取り付けるパネル(ビーム)が直線状であることから、急なカーブを造るのは難しいだろうとも思います(参考)。
運動会の種目の大玉送りを覚えているでしょうか。昔は竹で編んだ丸い骨組みの上に布をかぶせた大玉を使いました。超電導リニアの走行方式は大玉送りに似ていると思いませんか。生徒が向かい合って手をあげた上を大玉が転がっていきます。途中で左右の生徒の支え方のバランスが崩れたり、前後の手の出し方がうまく連携しないと玉が落ちたり止まったりします。超電導リニアでは、地上コイルが子供たちの手にあたります。大玉が超電導磁石です。
超電導リニアはもちろん工業製品のコイルを使っているので大玉送りみたいなことはないでしょう。しかし、鉄道のようになめらかに連続したレールの上を車輪が転がるのと違って、とびとびに置かれたコイルとの間の反発力で支えられているのですから、なにがしらかの振動が起きるはずです。まあ、そんなような素人考えを書いても建設的でないので、専門家が書いたものを紹介しようと思います。
大変ご苦労をされました
リニアの超電導磁石の開発に関わってこられた方のお話です。技術に素人でもわかる部分が結構たくさんあります。まあ、読んでみて下さい。
ところで、日本では日本航空が成田空港と東京の間のアクセスにということで、HSSTという磁気浮上式鉄道を開発していました。これは常電導。その開発の中心的な立場にあった中村信二さんという方が、なぜ常電導を選んだかについて書いています。
この方式の魅力はなんといっても大部分がすでに解明され実用化されている技術の応用であり,それゆえに安価でかつ実用化がきわめて容易であることである.
日航技術陣では,これら各種方式を検討した結果,西ドイツの吸引式磁気浮上方式が低公害,省エネルギーの点で優れており,かつ最も早く実用に供しうる可能性が高いとの結論に達した.
HSSTは名古屋で「リニモ」という名前で2005年3月から営業運転をしています。最高速度は100㎞/hですが、これと似た方式の磁気浮上式鉄道は世界中で4つの路線が出来ています。超電導リニアの開発で大変な苦労をした原因は、最初に技術の可能性を見通すセンスが無かったからといえるのではないかと思います。あるいは、センスのある技術者がいたのに組織的な問題(※)があったためなのか。
※ (2019/06/23 補足) 北山敏和さんのホームページの「山梨リニアの超伝導磁石」:実験センターの人間は仕事が面白くないので1~2年でどんどん変わっていきましたが、京谷氏だけは10数年変わらずにリニア本部長であったため、国鉄本社でも「リニアは京谷氏一人におまかせ」といった状態になり、国鉄内に京谷氏独裁のリニア村ができていきました。
左上=リニモ、右上=北京、左下=仁川、右下=長沙(ウィキペディアより)
中村信二さんとHSSTの開発については、長池透さんが書かれた『リニアモーターカーへの挑戦』という本を読まれるとよいと思います。面白い本です。
ドイツの開発した高速の磁気浮上式鉄道トランスラピッドも2004年1月から営業運転をしています。
クエンチ対策は?
これは、素人ではチンプンカンプン。関西大学教授の大橋俊介さんが1997年に書かれた博士論文です。次は、論文を審査した時の論文の要旨とか審査の評価の要旨が書かれた文書です。
これは、素人でも読める感じです。特に「審査要旨」の中の「クエンチ時に列車運動を安定させる方法として、クエンチしたコイルと進行方向に対して反対側の正常なコイルを緊急消磁することで台車の横方向変位、ヨーイングおよびローリング角を抑えることができるのを示すとともに、上下変位やピッチング角が増加し、各コイルにかかる異常電磁力の改善は見られないなどその限界を明らかにしている。」という部分。私が、カーブでクエンチが起きたら危ないだろうなと思う根拠です。実はしばらくまえに、読んでいたのですが、どこにあるか忘れてしまって、ときどき探してみてはいたんですが、やっとありかが見つかったので紹介しました。
■直線を走っている場合。 片側の超電導磁石がクエンチを起こしたとき、反対側の超電導磁石の磁力をゼロにすれば、左右のバランスがとれるので、車体の左右のぶれ(ヨーイング)や横揺れ(ローリング)が起きないようにはできる。 しかし、その部分では車体の支えを失うので上下方向に垂れ下がったり上下の揺れがひどくなるはず。 ■カーブを走行中は?(※) |
※ (2019/06/23 補足) 上の方で紹介した北山敏和さんのホームページ: 私(北山さん)が藤江恂治氏の後任として宮崎実験センターの副所長になったのは、逆T型のガイドウエイからU型のガイドウエイへの切替工事のときでした。 逆T型では人の乗るスペースがないので、U型にして人の乗れる車両に変更しました。 人が乗らなければ安全性を気にする必要がなかったのが、人が乗るなら安全性を考える必要があります。 それをやらないでU型の工事を計画し認めてしまったのが、間違いの始まりです。
北山さんが「U型」と言っているのが、現在のリニアの側壁浮上方式のガイドウェイです。
論文は1997年3月までに書かれたものです。山梨実験線で本格的な走行試験が始まったのが1997年です。以降技術はもっと進歩しているという意見もあるかと思います。しかし、トランスラピッドは1990年代より前にすでにこの程度に出来上がっていて、上海市がトランスラピッド方式で空港アクセスの路線敷設を決めたのは2000年でした。常電導方式のほうが実用化がはやいだろうという予測はあたっていたといわざるをえないと思います。
中国が研究開発した時速600キロの高速リニアモーターカーの試作車
実際に路線が敷設できるかどうかは別にして、中国では、常電導方式で時速600㎞/hで営業運転する車両の開発をしていて、最近浮上試験に成功したというニュースがありました。
500㎞/h程度の高速で走行するという目的に対してよりシンプルな方式で、早くに実用化していたのがトランスラピッドです。超電導リニアに、トランスラピッドを上回るなにか優れた点が無いとすれば、これほどの年月をかけた意味は何なのかと思います。トランスラピッドは、かなりきついカーブでも浮いたままで走行できること、乗降りは普通のプラットホームで間に合う点、省電力、点検整備が容易なこと、など超電導リニアより優れた点が多くあるのです。
究極の無理、南アルプストンネル
もし超電導リニアがほとんど直線しか走れないので、路線が南アルプスルートになったとしたら、超電導リニア技術の欠点をトンネル土木の技術でカバー(尻拭い)するということになります。南アルプスのトンネル工事は専門の掘削業者も「掘ってみなければ分からない」というほどの史上最大の難しい工事になるはずです。そして、静岡県は、県民の死活にかかわる大井川の減水問題で絶対にゆずらないでしょう。川勝知事はルートの変更ということまで言っています。超電導リニア計画はこれで終わりじゃないかと思います。
最近の静岡県知事の発言に関連した報道