更新:2023/10/02

防音防災フードが設置できないのは地盤の問題

 長野県内のリニアの中間駅から東の座光寺地区の下段(天竜川と同じ高さの地域)では、リニアの高架橋部分に騒音対策のために防音防災フードを設置するよう地元の住民が求めていました。しかし、JR東海は、緊急時に乗客の避難のためにフードのない部分が必要なので設置できないと説明し、飯田市は安全性の問題だから仕方ないと納得しました。住民の中にも、エアコンとか二重サッシなどの個別対策の補償でよいという人もいるようです(*1)。

*1 『信毎』2022年12月8日 "リポート信州:着工迫る県内駅 落とす影"

 山梨実験線が高架で走っている都留市の川茂・大原地区(山梨県立リニア見学センター付近)では、騒音問題が深刻で、住民が防音防災フードの設置を求めていましたが、JR東海は、防音防災フードを設置するには、現状の高架橋の橋脚の強度が足りなくて、基礎からつくり直さないといけないので、工事に時間がかかり、費用もかかるので、フードの設置はできないと説明しています(*2)。

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(*2の②のフェースブックより)この様式はJR東海が説明会などで配布する資料と同じです。日時は不明ですが、おそらく都留市内の地元住民への説明会で配布されたものだろうと思います。

*2 2022年9月に「ストップ・リニア!訴訟」に関連して東京地裁の裁判官が山梨実験線沿線の被害の状況を視察しました。また第25回口頭弁論では騒音被害について住民が川茂地区の状況について意見陳述をしました。①『週刊金曜日』2022年11月23日 "リニア行政訴訟、原告住民が語った“不都合な真実”(樫田秀樹氏)"、②「フェイスブック」の阿久沢悦子さんの投稿

 そして、高架橋周辺の騒音がひどい場所に住む住民に対して、立ち退きを求めています。しかし、立ち退きを求めるのは、その地域に雪をとかすための施設を建設するためと説明しています(*3)。

*3 『記事の裏だって伝えたい』(樫田秀樹氏) "リニア。「ストップ・リニア!訴訟」第25回口頭弁論は2回目の原告側証人尋問。JR東海の「住民軽視」「アセス軽視」の姿勢が明らかにされた。国もJR東海もほとんど反論しなかった。"と、同じページのこの画像

 2021年の5月21日に、JR東海の宇野護副社長と山梨県の長崎幸太郎知事が会談しましたが、その時に、山梨県内の地上区間の8割に防音防止フードを設置するが、「車体と空気の摩擦熱を逃すための換気箇所の整備や地盤条件などで、フードを設置できない区間については、上部が空いた高さ約3・5メートルの防音壁で代替する」(『毎日』5月22日 *4)と説明しました。『産経』(21日 *5)は、「地盤が弱くフードが設置できない場所や周囲に民家がない場所の計10カ所は防音壁で対応する。県立リニア見学センター(都留市)はフード設置対象外となった」と、『毎日』は「防音壁区間は、河川付近など周辺に民家が少なく騒音の影響が少ない場所とし、中央自動車道境川パーキングエリア(PA)付近▽笛吹川付近▽釜無川付近――など10カ所を示した」と書いています。(引用部分の強調は引用者による)

*4 『毎日』2021年5月21日 "リニア地上部に「防音フード」設置 山梨区間の8割 JR東海"。

*5 『産経』2021年5月21日 "山梨のリニア、地上の8割にフード JR東海が知事らに回答"

 飯田市座光寺地区で、JR東海が防音防災フードを設置できないといっているのは、「河川付近」です。山梨でも「河川付近」は設置しないといっています。『毎日』は、設置できない場所として「地盤条件」、『産経』は「地盤が弱くフードが設置できない場所」と書いています。一般的には河川付近は地盤が弱いといわれていると思いますが、JR東海がいっている「河川付近」が「地盤が弱くフードが設置できない場所」ということであれば、飯田市の座光寺地区で設置できない理由もこれに当てはまるのではないか。

超電導リニアは、そもそも、地盤が弱く人口密度の高い日本に不向き

 実験線というのは、走行に関係するいろんなことを試験するために建設したはずですが、高速で走るのだから騒音対策のために防音防災フードを設置するなどの対策の可能性まで考えて建設されたんじゃなかったのですね。そんな、バカな。山梨県に実験線を建設すると決まった当時、将来営業路線の一部として使えるようにという説明は、中途半端なことをするものだと、ちょっと変だと思ったものです。

 実験線のようにもうできちゃっているんで、それをつくり直してというのは大変ということはあり得る話だと思うのですが、しかし、時間があるんだからつくり直すべきです。丈夫な橋脚の開発だって実験線の課題だったはずです。しかし、これから新たに建設する部分で「地盤が弱くフードが設置できない場所」があるということは、そもそも、地盤の弱い日本では超電導リニアは無理ということでしょう。もともと地震が多く地盤が弱い日本では『超電導秘術』によって10㎝浮かせる必要があるなんていってたわけなんですが(*6)、結局、地盤が弱いから、たぶんコストの点で、防音防災フードが設置できないなんてのは、リニアの技術が日本の国土に適していないという話になると思うんです。

*6 "リニアの開業時期、もともとは2000年 補足:日本は本質的に地盤が弱い"

 アメリカでは、リニアの建設はまだ計画の段階なんですが、それなりの理由から、ほぼ建設が絶望的な状況になっています(*7)。しかし、日本では建設が始まってしまった。

*7 "アメリカのリニア計画はどうなっているか?"、"(2)"、"(3)"、"(5)"。

 日本の国土の条件に適していない走行方式が、世界で唯一建設着工が可能だったという事実は、非常に不思議なことだとは思いませんか(*8)。

*8 "アメリカのリニア計画はどうなっているか?(4) 飯田下伊那にひきあてて "

 単なる憶測ですが、座光寺地区のフードを付けない付近は、ガイドウェイの側壁パネル(鉄道のレールに相当するもの)の製作保管ヤードのある、喬木村の堰下地区や高森町の下市田河原に近いので、側壁パネルを高架橋に運び入れるにも便利なんではないかと思いますね。どっからいれるのって説明会で質問したら高架橋なんかのところでクレーンで吊って入れるっていってたとおもいます(*9)。笛吹市も境川パーキングエリアの隣が側壁パネルの製作保管ヤードで、境川パーキングエリア付近でフードを付けない(前出『毎日』)といっている。恵那市の岡瀬沢地区はフードを付けないなら工事を認めないと住民が主張していた(いる?)ところです。ここも、中津川市の千旦林の側壁パネルの製作保管ヤードに近いですね。

*9 "下市田河原ガイドウェイ製作保管ヤードの説明会、12月6日"

 地盤が弱いところが多く、人口密度も高い日本には、不向きな超電導リニアです。なお、騒音がひどいのは、超電導磁石を用いた誘導反発方式を曲がりなりにも実用とするには、側壁浮上方式を採用せざるを得なかったからだと思いますから、その点でも、日本には適していない方式です(*10)。

*10 "リニアの空気抵抗 ― 知恵の無い先端技術"。また、停止状態から加速していくときの抵抗を減らし電力消費を減らすためにも軌道底面でなく軌道の側面に浮上用コイルを取り付ける必要があります。

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