JR東海が評価書補正版、長野県分を訂正

 以前、長野県分の景観の変化の予測に使われたフォトモンタージュの撮影データについての疑問点について書きましたが、10月2日頃、JR東海は、この部分について、同社サイトの評価書補正版のPDF版を訂正しました。各地で縦覧に供された印刷された評価書は訂正のしようがないので、関係自治体、長野県、国土交通省などに連絡したようです。以下で説明する内容が「誤字・脱字等の訂正については、適宜行っております。」にあたるかどうか。訂正した内容は:


画面をクリックすると拡大できます

 Pentax Optio WG シリーズはアウトドアレジャーで気軽に使える防水カメラで、5〜25mmのズームレンズ(35mm換算 28〜140mm)がついています。GPS付モデルもあるようです。記録する画像の縦横の比率が、1:1 と 3:4 と 9:16 (1:1.77)の3種類があります(下図)。赤い枠で囲ったのが 3:4 です。


Pentax Optio WG-1 の取り扱い説明書より


Pentax Optio WG-2 の取り扱い説明書より

 二つの違いは最大記録画素数のようです。

 準備書、評価書ともに資料編にある松川橋梁のフォトモンタージュの縦横比が 1:1.77 (= 16:9)になっていたことも説明がつきます。

 このカメラは防水カメラのため、ズーミングしてもレンズが伸びたり縮んだりないように、光学系を折り曲げて本体の中に内臓しています。途中にプリズムを使うなど普通のカメラよりは複雑な光学系のため若干画質は落ちるはずです。他地域に比べフォトモンタージュの画質が劣る理由だと思います。

 諸般考慮して機種に間違いはないと思いますが、こういう仕事にこの手のカメラを使うのは珍しいと思います。

 保存する画面比率や2台のカメラを使い分けるなど非常に面倒な操作をしたようです(興味のある方は詳細を後述するのでお読みください)。他地域はもっとお手軽で確実な方法でやっています。リニア技術自体が「車輪の再発明」といえるようなもの、目的にあった最も簡易で合理的な方法を敢えて選ばないやりかたですから、長野県分のフォトモンタージュの作成方法のなかに「JR東海スタイル」がみてとれるといえるかもしれません。

 撮影データを記載すべきことは『自然環境アセスメント技術マニュアル』に書かれていることです。長野県だけでなく他地域も準備書段階では記載がありませんでした。検討の材料であるフォトモンタージュの撮影条件が不明では影響の評価は納得できないというしかないでしょう。関係住民との合意のための材料とはなりえません。

(2014/10/04、2014/10/05 訂正前後の比較画像追加、若干の補足)


四つ切とワイド四つ切

 大事なことを忘れていたので付け加えます。訂正された評価書補正版の撮影条件のなかで次のような部分があります。

編集:上下約7%カット
※ 横縦比4:3で撮影したものをワイド四つ切サイズの比率とするため

 あるいは

編集:上下約7%カット、左右約25%カット
※ 横縦比 16:9で撮影したものをワイド四つ切サイズの比率とするため

 これはカット(トリミング)した理由を記したものです。次は長野県の環境評価技術委員会で委員長とJR東海とのやり取りです。

No.68 景観 亀山(委員長) 第2回追加意見:準備書8-5-1-29〜44ページのモンタージュ写真は、いずれも画角が広いためにモンタージュ写真としての臨場感がない。人間の目は特定な物を見るときには注視するので画角はより狭いものとなる。つまり、望遠レンズで見ることになる。そのため、画角を狭くしたモンタージュ写真を示す必要がある。また、写真の印刷画面も、より大きくする必要がある。
(事業者の事後回答) ・自然環境研究センター1996年9月)及び長野県環境影響評価技術指針マニュアル(平成19年8月)に基づき、撮影範囲が人間の視野に近くなるよう35mmの広角レンズを使用しました。 ・実際の視覚的印象に近いとされる四つ切サイズの大きさで印刷したフォトモンタージュを資料1-9にお示ししました。

 JR東海がいっている「実際の視覚的印象に近いとされる四つ切サイズの大きさ」の根拠は、『自然環境アセスメント技術マニュアル』の「35mmレンズで撮影した写真では四つ切サイズに引き伸ばして約30cm程度離して見るのが妥当とされている」とか「長野県環境影響評価技術指針マニュアル」の「概ね四つ切り程度に引き伸ばした時に実際の視覚的印象に近い」といった部分だと思います。これは写真を見る距離との関係で四つ切程度が適当だといっているのだと思います。

 ワイド四つ切は 254×366mmで、縦横比は 1:1.44 ですが、3:4 (1:1.33)をカットせずに焼き付ける(引き伸ばす)ことは出来るはずです。もちろん、四つ切(254×305mm、1:1.2)でも、紙面のなかに原版をカットせずに引き伸ばすことは可能です。

 マニュアルは画角を示すことが大切だといっているのですから、原版の画角を撮影レンズの焦点距離で表そうとすれば、トリミングはすべきではない。JR東海は逆に印画紙の比率に原版の比率を合わせようとしたわけです。考え方が、まったく逆です。

 JR東海の長野県の担当者は写真の初歩的な仕組みが理解できていないようです。決して難しい話じゃありません。ファインダーで確認した全部のものを、写したいと思った全部のものを、仕上がりの写真に入れたいかどうかというだけの簡単な話なのです。

(2014/10/04)


(2014/10/21 補足) 訂正された補正評価書のPDFのプロパティをみると、最終更新が10月2日になっていますから、この訂正は明らかに縦覧期間(9月29日まで)よりあとです。関係自治体のなかでは訂正の連絡があったのかなかったのか担当者が明確に把握できていないところもあるようです。また自治体によっては印刷された評価書をすでに返却したところもあります。ただし、縦覧に際して同時に提供されたPDFファイルは保存しているようです。JR東海のホームページには訂正のあったこと、訂正内容についてはなにも告知はありません。


豊丘村、林公園は、Pentax Optio WG-2 (以下 WG-2 と書きます) で 16:9で撮影したものを左右(方向)を約25%をカットしたと説明しているので、ざっと計算すると、65度×0.75=48.75度 となるので、現地で調べた47.6度と大差なく、JR東海の説明は間違っていないと思います。ただし、本当は「この画面は左右方向で約49度の範囲が写っています」と書くべきです。この場合は5mmとか28mmといった数字は直接には画角を示していません。「撮影に使用したカメラのレンズの焦点距離」というのは提示されている画像の画角のことです。だから他地域ではもっとも確実で簡単な方法として元の画像を周囲をカットせずそのまま使っています。JR東海さんの長野県の担当者さんはこの辺ところがまだきちんと理解できていないようです。

喬木村のアルプスの丘公園は、Pentax Optio WG-1 (以下 WG-1 と書きます) で 4:3 で撮影して上下(方向)を約7パーセントカットしたとしているので左右方向の元々の画角はそのままですから28mm相当で間違いないでしょう(参考)。

高森町、天竜川親水施設(親水公園)は、 WG-1 で 4:3 出撮影して上下方向を約7%カットしたというので、左右方向は変化ないので28mm相当画角で間違いないです(参考)。

高森南小学校は、WG-2 で 16:9で撮影して左右方向を約25%カットしたとのことですから画角は約48.75度。しかし、現地で撮影した28mmレンズで撮影した画像で調べると左右で写っている範囲は53度、35mm判35mmレンズ相当。トリミング量は19%です(参考)。「約25%カット」はやや疑問です。

高森町、松岡城址は、上記南小学校と同じく WG-2 で 16:9で撮影して左右方向を約25%カットしたとのことですから画角は約48.75度。現地で撮影した35mm相当画角の写真と遠景の山の写っている範囲が同じですから画角は54度程度のはず(参考)。ファインダーの視野率95%を考えても 51.3度程度ですから「約25%カット」は少し多めだと思います。

高森町、月夜平展望台も、上記の南小学校、松岡城址と同じ条件としています。現地で撮影した写真から写っている範囲は57.9度でした(参考)。「約25%カット」は過大だと思います。せいぜい11%程度と思います。

飯田市、風越公園(妙琴原)は、カメラ(WG-2)を三脚に固定して、2枚撮影したものの内の1枚でもう1枚は資料編の「松川橋梁」で使ったということになります。この2枚は非常に良く似ていますが、雲の形がごくわずかですが違っています。資料編のフォトモンタージュは 16:9 でそのままカットせずに使っています。風越公園は、16:9 で撮影して左右方向を約25%カットしたといっています。現地で調べた結果は左右方向の画角が約51度でした(参考)。カットした量は22%程度ですから、まあ妥当といえます。

風越山中腹も、WG-2 で 16:9で撮影して左右方向を約25%カットとなっています。現地で調べると写っている範囲は35mm判換算で39mmレンズ相当の画角(約49度)でした(参考)。この撮影条件は間違っていないと思います。

虚空蔵山の山頂も、WG-2 で 16:9で撮影して左右方向を約25%カットとなっています。やはりこの画角も35mm判換算で39mmレンズ相当の画角(約49度)でした(参考)から、撮影条件は間違っていないと思います。

喬木村の県道18号線は、WG-2 で 4:3 で撮影して左右方向はカットせずに使っているということなので、現地で調べた28mm相当レンズで撮影という結果と矛盾はありません(参考)。

豊丘村の小園こども広場も、WG-2 で 4:3 で撮影、左右カットせずという条件ですから、現地で調べた結果、28mm相当レンズで撮影という結果とあっています(参考)。

喬木村の竜東一貫道路も、WG-2 で 4:3 で撮影、左右カットせずですから、矛盾はありません(参考)。

天竜川右岸堤防(飯田市)は、WG-1 で 4:3 で撮影、左右カットせずとしています。現地で調べると左右の写っている範囲は56.6度でした(参考)から、左右方向で13%程度カットしているはずです。

飯田北部農免道路は、WG-2 で 4:3 撮影し、左右はカットしていないことになっています。現地で調べた結果は28mm相当の画角でしたから問題はないと思います(参考)。

中河原農業生活改善センター(飯田市座光寺) は、WG-2 で 4:3 で撮影されています。左右のカットはありません。現地で28mm相当のレンズで撮影した写真と同じ範囲が写っているのでこの撮影条件は間違っていないと思います(参考)。

飯田市、県道251号線は、WG-2 で 4:3 で撮影して、左右はカットしていません。現地で写した写真から推測すると準備書、評価書の写真の左右の画角は62度程度ありますから、撮影条件は大体あっていると思います(参考)。

こういった結果ですが、これは今回、非常に遅れてだしてきた撮影条件のデータが大体妥当だということでして、景観の変化が許容できるものかどうかとか、これらの予測地点が妥当かどうかといった問題はまったく別問題、それ以前の問題でして、解決はできていません。その点を誤解なく。また当初のJR東海のデータの扱いが極めて杜撰で不適切だったことを示しているわけでもあります。

 ひまな人のためにパズルの材料(※カメラの種類は WG-1、WG-2 を 1、2 と表記)。

予測地点カメラ(※)撮影時期記録画面比率横方向の画角
54度以上=28
54度以下=35
林公園224年8月16:935
アルプスの丘公園124年8月4:328
親水公園124年8月4:328
南小学校224年8月16:935
松岡城址224年8月16:935
月夜平224年8月16:928
風越公園224年8月16:935
風越山中腹224年8月16:935
虚空蔵山頂224年8月16:935
県道18号線224年9月4:328
小園子ども広場224年9月4:328
竜東一貫道路224年9月4:328
天竜川右岸堤防124年6月4:328
北部農免224年9月4:328
中河原集会所224年9月4:328
県道251号線224年9月4:328

(2014/10/04)

パズルの答えみたいなもの

 上の表から推測すると撮影の方針は、28mm相当画角で仕上げるつもりの場所は 4:3 で撮影し、より狭い画角、たとえば35mmで仕上げるつもりの場所は 16:9 で撮影し、トリミングで35mm相当の画角に調整する、といったことではなかったのかと思います。そういうやり方も可能だと思います。しかし、長野県のマニュアルでは28mmでも35mmでもよいのですから、Pentax Optio WG シリーズを使用するなら、すべて比率3:4 、28mm(カメラの広角側)で撮影、トリミングしないというのが一番正確で簡単な方法だったはずで、おそらく他地域はそれと同等の方法でやっています。専門のアセス業者(復建エンジニヤリング)さんが特定の画角(たとえば35mm相当)で安定して撮影出来るカメラ(たとえば他地域でも使っている APS-C サイズのデジタル一眼レフ)を用意できなかったというのは、ちょっと理解に苦しみます。愛知県分などはかなり高価なフルサイズ(36×24mm)のデジタル一眼レフを使っています(こういった機種なら焦点距離が変化しないまさに35mmレンズが使えます)。愛知以外は、APS-Cサイズのデジタル一眼レフにズームレンズをつけておそらくズームリングを35mm相当焦点距離(21〜23mm程度)に固定する工夫(カット・アンド・トライで焦点距離位置を探ってから、多分、セロテープで固定する/目印をつけるなど)をして撮影しています。

(2014/10/06)